81歳の大統領の語り口は決して力強いものではなかった。執務室からカメラを見据え、国民に訴えた10分ほどのバイデン大統領の演説にはどのようなメッセージが込められていたのか。「次世代にバトンを」とカマラ・ハリス副大統領に「打倒トランプ」を託した言葉を検証する。
「最善の道を選ぶことを決めた」バイデン氏が明かした撤退の理由
新型コロナの隔離明けということもあり声は弱々しいものだったが、最後の思いをぶつけたような演説だった。
まずこの演説の注目点の1つだったのが「撤退」の決断について、どのように自身の言葉で説明するのか、ということだった。
撤退決断についてバイデン大統領は、「2期目を考えていた」としながらも「民主党を団結させる必要があると思った」「国を団結させる最善の方法はバトンを次の世代に渡すことだ」と訴えた。そのうえで、撤退に至った決断について「最善の道を選ぶことを決めた」と説明した。
自身の後継候補には、すでにカマラ・ハリス副大統領を支持すると表明しているが、ハリス氏について演説の中で「彼女は経験が豊富でタフで能力がある」と紹介をした。
そして国民に対して「アメリカの将来を決めるのはアメリカ国民だ」「決めるのはあなた次第だ」と語り、ハリス氏への支持を呼びかけた。
「アメリカは独裁者が支配する国ではない」トランプ氏を意識か
バイデン大統領は演説の冒頭、過去の大統領の名を用いて「民主主義を守ることの重要性」を訴え、過去の大統領から継承してきた「清廉性」や「資質」を強調した。
そして「いま“選択”をすることが重要だ」として、バイデン大統領は「前に進むのか後ろに戻るのか」「希望なのかヘイトなのか」「団結なのか分断なのか」と、国民が“選択”することが求められていると呼びかけた。
また、バイデン大統領は「アメリカは王や独裁者が支配する国ではない。アメリカは国民のための国なのだ」「権力は皆さんの手にある」とも訴えた。
こうした言葉の裏にあるのが、トランプ氏の存在だろう。
名指しこそしなかったものの、トランプ氏がもし大統領になったら「民主主義は危機にさらされる」、そういうニュアンスが演説のあちこちに盛り込まれていた。
託されたハリス氏 「打倒トランプ」どのように
バイデン大統領からバトンを受け取ったハリス氏がどうトランプ氏に対峙していくのか。トランプ氏にとっても、元検察官という経歴を持つハリス氏をどう攻めていくのか。
無党派層を呼び込むためにはこれまでの“罵りあい”だけでは厳しいだろう。そういう意味でも、きちんとした政策論争を国民に届けられるかが重要になってくる。両者の戦いはこれまでと違う面も見られることだろう。
そしてハリス氏は「誰を副大統領候補に選ぶのか」というところも大きい要素になる。
現時点で10人以上の名前が取り沙汰されているが、カリフォルニア州のニューサム知事などは2028年の大統領選に向けて準備をしているため可能性は低いのでは、と言われている。
一方、ペンシルベニア州のシャピロ知事やケンタッキー州のベシア知事といったアメリカで人気のある政治家の名前が挙がっている。幅広い層に支持を訴えるために、黒人女性のハリス氏の”ランニングメイト”は「白人の男性」が有力なのではないかというのがもっぱらの見方となっている。
まずは8月19日から開催される民主党大会で、勢いをつけて選挙戦後半に臨めるかに注目だ。
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