イスラエル支援を「国是」とし、米国に次いで多くの兵器をイスラエルに輸出してきたドイツが今年3月以降、兵器の輸出認可を停止していたことが、毎日新聞が入手した裁判資料で分かった。ドイツ政府はこれまで兵器輸出について明確な姿勢を示していなかったが、パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘で多数の民間人が死亡していることなどを受け、停止に踏み切った。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると2023年、イスラエルが兵器を輸入した国は米国が69%で最も多く、ドイツが30%で続く。輸入はこの2国がほとんどを占める。
ドイツは、ナチスによる第二次世界大戦時のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の反省から、ユダヤ人国家であるイスラエルを強力に支援してきた。
昨年10月にガザ地区のイスラム組織ハマスが越境攻撃を始めると、イスラエルの「自衛権」を支持。兵器の輸出認可件数を急増させ、前年の10倍の規模となる3億2000万ユーロ(約536億円)相当の武器や防衛装備の輸出を認可した。これには約3000の対戦車兵器や50万発の機関銃用銃弾などが含まれる。
だがガザの民間人犠牲者が増えるにつれ、国際社会では、イスラエルの攻撃が「国際法違反」であるとの指摘が拡大。3月には、カナダが兵器の輸出凍結を発表し、イタリアも新たな兵器輸出の認可を出さないことを決めた。最大の兵器輸出国である米国も5月、避難民が集まるガザ地区最南部ラファへの本格侵攻に反対し、一部爆弾の供与を停止している。
こうした中、独政府は「個々の輸出計画について、案件ごとに協議している」として、態度を明確にしていなかった。
だがガザ地区の住民が人権団体の支援を受け、独政府に兵器輸出の停止を求めた訴訟を巡り、ドイツの行政裁判所は6月10日の判決で、政府が3月から兵器の輸出認可を停止していると明らかにした。今年は2月までに約3万2000ユーロ相当の兵器輸出を認可したが、それ以降は停止したという。理由について「(ガザ地区で起きた)出来事に対する反応」とし、「外交、安全保障上の利益と法的な要件を考慮した」としている。
イスラエル軍は昨年10月以降、ガザ地区でハマスに対する攻撃を開始。国連によると、ガザではこれまでに3万9000人以上が死亡し、身元が判明した約2万4000人のうち、半数以上が女性や子どもだという。また、最大190万人が避難民となり、食料や水が欠乏する厳しい環境に置かれている。
ガザ住民、独政府の兵器輸出に「圧力」
ドイツによるイスラエルへの兵器輸出停止を明るみに出したのは、パレスチナ自治区ガザ地区の住民による訴えだった。
ガザに住む30代男性、ジュマさんは今年2月、ガザ最南部ラファの自宅で家族と過ごしていた際、イスラエル軍の空爆に遭い、妻と1歳の娘を失った。妻はガザの人権団体「パレスチナ人権センター」(PCHR)で働いており、PCHRはドイツの人権団体「欧州憲法人権センター」(ECCHR)とともにガザの人道状況を調査していた。
両団体の支援を受けたジュマさんらは4月、ドイツの行政裁判所に独政府によるイスラエルへの兵器輸出の停止を求めて提訴した。
ドイツの国内法は、戦争犯罪が行われているおそれのある地域に武器を輸出してはならないと定める。ECCHRのアレクサンダー・シュバルツさんは「ドイツから輸出された武器が、我々の同僚を爆撃する可能性があると気づいた」と語った上で、「独政府は倫理的な理由だけでなく、法的な理由から、兵器輸出をできるだけ早く止めるべきだと思った」と話す。
裁判所は6月10日、独政府がすでに武器の輸出認可を停止していることを理由に、ジュマさんらの訴えを退けた。将来的な兵器輸出については、独政府が今後法律を「軽視する」可能性が高いという「具体的で十分な」根拠がない限り、禁止できないとした。
シュバルツ氏は今回の訴訟で、政府の兵器輸出停止が明らかになったことを「小さな一歩」と評価する。また、判決を受けて「政府は今後の兵器輸出も慎重に判断しなくてはならなくなった」と指摘する。【ベルリン五十嵐朋子】
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