下院総選挙後に記者会見に応じる前進党のピター党首(当時)=バンコクで2023年5月15日、石山絵歩撮影

 タイの最大野党「前進党」が解党の瀬戸際に立たされている。2023年5月の下院総選挙で王室への中傷を禁じる不敬罪の改正を公約に掲げたことが憲法違反に当たるとされ、憲法裁判所が解党命令の是非を審議中だ。来月7日に判断が示される予定で、解党となればタイの民主化は再び足踏みすることなる。

 前進党は下院選で不敬罪改正などを訴えて、14年のクーデターから続く親軍政権からの交代を目指した。国王が国家元首として絶対的な権威を持つタイで王室批判はタブーとされる中、古い政治体制や既得権益に挑戦する政党として若者を中心に支持を集め、最多議席を獲得。ところが、王室を後ろ盾に影響力を維持してきた親軍派や保守派の反発は強く、政権入りは阻まれた。

 野党にとどまったものの党やピター党首(当時)への支持は衰えず、危機感を持つ保守派は不敬罪改正の公約を問題視して憲法裁に提訴。憲法裁は1月、党の公約は国家転覆を意図しているとして違憲の判断を下した。選挙管理委員会がその後、判決を根拠に解党命令を出すよう憲法裁に申し立てていた。

 現在の憲法裁の裁判官と選管委員は、14年に発足した軍政が指名。その判断には国軍や親軍派の意向が反映されていると言われる。前進党の前身の「新未来党」は19年の下院総選挙で反軍政を掲げて躍進したが、翌年に政党法違反を問われて解党命令を受けた。

 判決を前に国内外で懸念が高まっている。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「(解党されるなら)タイの人々の民主的権利が危機にさらされる」と非難した。SNS(ネット交流サービス)には「同じことが繰り返されて希望が持てない」と悲観する意見がある一方、「これからも応援する。次世代の希望であり続けてほしい」といった投稿もある。

 解党となれば、ピター氏ら党幹部は被選挙権を10年間停止されるが、他の議員は新党を結成して政治活動を続けるとみられる。

 筑波大の外山文子准教授(タイ政治)は「正攻法で民主主義の実現を訴える前進党は利権でつながる保守派にとって脅威で、解党で影響力をそぎたいのだろう。ただ、前進党が求める民主主義の実現という理念は所属議員や賛同者らに共有されており、支持は広がり続けている。民主化という大きな流れを止めることはできない」と指摘する。【バンコク武内彩】

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