フィリピンに輸送された米陸軍の中距離ミサイルの発射装置=2024年4月7日撮影、米国防総省提供

 米陸軍制服組トップのジョージ参謀総長は18日、連邦上院軍事委員会の公聴会で、地上発射型の中距離ミサイルを運用する「マルチドメイン・タスクフォース(MDTF=多領域任務部隊)」の新たな部隊を南部ノースカロライナ州に配備すると明らかにした。米ディフェンス・ニュースによると、別の部隊の西部コロラド州への配備も内定。既に配備済みの3部隊を含む全5部隊が米国と欧州に置かれることになり、対中国で検討されていた日本への配備は見送られる公算が大きくなった。

 米陸軍は2028年までにMDTFを5部隊創設する計画で、西部ワシントン州、ハワイ州、ドイツに3部隊が既に配備されている。陸軍は日本や米領グアムを含むインド太平洋地域に新部隊の追加配備を検討してきたが、日米関係筋によると、日本側は慎重姿勢を見せていた。報道によると、コロラド、ワシントン、ハワイ各州の3部隊をインド太平洋方面の対応に従事させる方針だという。

 陸軍が海兵隊に続く形で、対中国で「前線」となる地域での地上発射型の中距離ミサイル配備を見送れば、この射程のミサイル配備数で中国に劣る「ミサイルギャップ」の解消は遠のく。

 米国は、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約が19年に失効するまで、射程500~5500キロの地上発射型ミサイルを保有してこなかった。そのため、中距離の射程では、既に弾道ミサイルだけでも1500発以上を保有する中国との戦力差が広がっている。

 米陸軍は、同盟国との共同訓練や多国間演習を通じて、MDTFを、日本を含むアジア各地に一時展開し、抑止力を高める構想を描いている。

 4月11日にはフィリピンでの米比共同演習で、初めて米国内から中距離ミサイルシステムを輸送して一時展開した。ただ、中国との緊張が高まった場合、制空権を握られて、前線への空輸が困難になる可能性もある。中国を射程に収める地域に常時配備し、地上で運用する場合に比べると、即応性が低下する。

 MDTFは、地上発射型の長距離・極超音速ミサイル(24年末に運用開始予定、射程2700キロ以上)や対地攻撃巡航ミサイル「トマホーク」(既に配備開始、射程1600キロ以上)の運用能力を持つ。多領域にまたがる現代戦に対応するため、サイバーや宇宙、電子戦領域を含めた総合的な作戦能力も持っている。【ワシントン秋山信一】

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