世界中に衝撃が走った、トランプ氏の銃撃事件。容疑者の動機などをめぐり未だに捜査が続いているが、銃撃直後のシークレットサービスを写したとされる写真が物議を醸している。写っているのは、トランプ氏を守る男性隊員の影に隠れ、身を縮めているようにも見える女性隊員の姿。この写真が拡散されると、女性隊員への非難や女性を警護につけることに対する疑問の声がSNSで相次いだ。また、米CNNは警備体制の失態は多様性の導入や女性の採用が原因だという右派メディアの声を伝えている。
【映像】銃撃時、真っ先にトランプ氏の盾になった女性隊員の姿
実は現場にはもう1人の女性隊員がおり、真っ先にトランプ氏の盾となり、立ち上がった後は正面を守っていた。そして、非難を浴びている女性隊員についても、CNNは元FBIの専門家の話として「彼女は拳銃を抜いて、後方を警備していた」と別の役目があったとの分析も報道。元シークレットサービスの隊員はNBCの取材に対し、切り取られた写真について「遠くから近づいていた可能性や、ポジションを切り替える途中だった可能性がある」とも分析している。
多様性が尊重される社会の中で、時に身を挺する警護という仕事に女性は適しているのか。警備に求められる能力とは…『ABEMA Prime』で考えた。
■女性SP不要論も 専門家「女性警護員が十分な能力を有していないという懸念は事実だ」
海外の現職大臣に関する警護活動などを経験、狙撃・射撃の専門家でもある田村装備開発の五島義識氏は、「混沌の中の一瞬を切り取った画像だと思う。これをネタにして、『女性の警備能力が低い』と直結させるのは非常に乱暴だ」と指摘。
一方で、「一部の女性警護員の能力が十分な能力を有していないという懸念は事実だ」とも述べる。デメリットとして、一般的に女性は男性より身長が低く、警護においては目と耳は高い位置にあるほうが有利なこと、警護対象を覆えたほうがいいことをあげる。メリットは、警護対象が女性の場合、トイレや更衣室など女性専用スペースの警備がしやすいこと、女性的な「モノの見方」「気づき」があることだという。
「身長はどうにも埋まらない部分で、それは男性でも同じだ。一番大事なのは、危険を早めに見つけ出したり、躊躇せず行動に移せる能力。体力や筋力面で女性が見劣りしてしまうのは仕方ないが、“女性は一般的に背が低いから”という批判は的外れだと思う」
では、男女で恐怖心の違いなどはあるのか。「民間の警備だと女性は圧倒的に少なく、それを実感するほど関わったことはないが、世間で言われているような“女性は男性よりも我慢強い”ということはあるのではないか」とした上で、「男女の機会平等以前に、警備には女性が必須だといってもいい。現場は常に欲しがっているが、増えていないのが現状だ」と述べた。
■不審者覚知の情報も…警備のあり方は?
銃撃の1時間前から警察が不審な容疑者に気付いていたという報道などもあり、現場の警備体制に批判が出ている。五島氏は「相手が犯行に着手できた時点で、警備は失敗している。不審者の情報が事前に上がっていた中で、真剣に取り扱わなかったのではないか、指揮官がうまく捌けていなかったのではないか、指示を待たずに確認に行けば取り押さえることができたのではないか、などはいろいろ考えられる。厳重に見える警備の隙間、それぞれの心の隙間をすり抜けた印象がある」との見方を示す。
今回、容疑者とみられる男がいたのは、演説会場から約125mの場所。スナイパーによる狙撃の最長距離は3kmを超えるともされる中、警備体制はどう敷けばいいのか。「確実性を考えると、それほど長い距離は犯人側もやりづらい。警備側もそういう見積もりはしつつ、現実的な距離で線引きをして体制を敷く」と説明。
現場の役割分担は、シークレットサービスが集会現場内の安全確保、地元警察(州警察など)が周辺エリアの安全確保を担当していたとされる。「人員不足よりも連絡の不備や、前述した認識の違いでエラーがあったのではないか。現場に人をうじゃうじゃ配置しても、味方撃ちや警察官同士の誤認が発生してしまうので、人数はすっきりさせたほうが良い結果を生む場合も多い」とした。
■日本でも相次ぐ要人襲撃事件
警察庁の露木康浩長官は18日、「選挙運動の警護は格段に危険度が増す現実を突きつけられた」とし、「高所などの警戒徹底を指示」「演説などでは屋内会場を優先するよう働きかけを進めていく」と述べている。
日本でも、2022年7月に安倍元総理が銃撃され死亡、2023年4月には岸田総理がいた会場に爆発物が投げ込まれるなど、政府要人への襲撃事件が発生している。五島氏は「一般の方の警備への理解は深まってはいる」とするものの、「日本は“まだまだ安全”という前提で有権者は捉えていて、武装した警察官をずらっと並べるような厳重な警備はやりにくい。米シークレットサービスと同じ対処は難しいのが現状だ」と指摘する。
一方で、選挙運動時の警護の難しさとして、「特にアメリカは政治家に強さを求める風潮がある。屋内開催にしたり講演を中止したりすると、テロの影響を受けたように捉えられる。やはり外でやりたがるし、パフォーマンスもしたがるところがあるので、警備のしにくさにもつながっている可能性はある」とした。
また、スポーツ選手もテロ攻撃の対象になりうる存在だという。「本人が望んでいなくても、その人がいなくなってしまうと困る組織などがお金を出して警備を雇うというやり方になるので、必要であればみんなにつけるべきだ。スポーツ大会に参加する選手は攻撃目標としての価値が高いので、十分なリソースを割いて警備を行ったほうがいいと」考えを述べた。(『ABEMA Prime』より)
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