銃撃事件から一夜明け、トランプ前大統領は、共和党全国大会が開催されるウィスコンシン州に到着しました。しっかりした足取りで、ガッツポーズを見せました。
選挙活動中の銃撃事件は、支持している党派に関わらず、大きな衝撃を与えました。
トランプ氏と距離をとっていた共和党員からも、こんな声が聞こえてくるほどです。
共和党員
「トランプ氏に傾いています。好きではない側面もあるが、襲撃を見て目が覚めた気分です。どちらか選ぶならトランプ氏です」
トランプ氏への支持が集まるだろうとの声は高まっています。
トランプ氏の支持者
「確実に共和党の結束は強まると思います。一部の無党派層が現実を直視するようになるでしょう」
トランプ氏の支持者
「トランプ氏に投票する人が増えると思います」
トランプ氏を支える共和党議員の中には、支持拡大に向けこの機を逃すまいと、民主党批判を強める人もいます。
共和党・ヴァンス上院議員
「バイデン陣営は、ドナルド・トランプ氏は、何としてでも阻止しなければならない権威主義的ファシストだということを大前提としてきた。その主張が、そのままトランプ大統領の暗殺未遂につながったのだ」
一方、バイデン大統領は、大統領執務室から国民向けのメッセージを送り“団結”を呼びかけました。
バイデン大統領
「我々は意見が違っても敵ではない。我が国に、このような暴力が許される余地はない」
自身の選挙戦略の中では、事件の影響は避けられないのが実情です。
もともと、前回の大統領選を受けて起きた議会襲撃事件で、「トランプ氏が政治的暴力をあおった」と批判してきた民主党。銃撃事件を受けて、こうした批判はしづらくなったのです。
バイデン氏は、世論の反発などを警戒し、「トランプ批判」をしていた選挙広告の取り下げを決めました。依然として、トランプ氏がリードするなか、選挙戦略の練り直しを迫られた形です。
CNN ジョン・キング上級特派員
「“トランプは強大で、バイデンは弱小”と、共和党は、事件を利用するでしょう」
◆共和党大会の会場内に小島佑樹記者がいます。
Q.現在の様子は。
小島佑樹記者
こちら党大会の会場は、開幕を控え、照明やステージ上のチェックなどが始まりました。周辺の警備は、前日に比べ、格段に警備が厳しくなっています。特に車は、決められたチェックポイントを通過しなければ、会場に近付くことすらできません。きのうはホテルから会場まで20分ほどでしたが、今朝は倍の40分、かかりました。
Q.事件を受け、トランプ氏自身はどう動こうとしているのでしょうか。
小島佑樹記者
まず、当日になっても、なお、党大会の詳細なスケジュールは出ていません。この後、約4時間後、初日のプログラムが始まることはわかっていて、トランプ氏がステージに上がる可能性が高まっています。通常、大統領候補は最終日にしか出てきませんが、初日から登場となれば、事件に屈しない姿勢を鮮烈に打ち出すことになります。また、トランプ氏は、党大会の演説について、事件を受けて全面的に内容を書き直したと保守系メディアの取材で明らかにしました。当初は、バイデン大統領の批判が中心だったようですが、新たな原稿では「団結のメッセージ」に焦点を当てたとしています。
事件をきっかけに、岩盤支持層の熱量は、これまで以上に高まっており、そうした支持者へのアピールは十分だと判断したとみられます。トランプ氏は、この党大会を機に、狙いを無党派層へとシフトチェンジしようとしています。
◆アメリカ政治が専門の慶応大学の渡辺靖教授に聞きます。
Q.トランプ陣営は団結を呼びかけるなど、選挙戦略を変えるのではないかという感じですが、どういう影響がありますか。
渡辺靖教授
共和党といっても、決して一枚岩ではありません。トランプ氏が過激すぎると、違和感を持っている人もいます。この考えは、無党派層では、より強いです。今回、団結を訴えて、歩み寄る姿勢を示す。よりソフトな面を示すことによって、そうした懸念を払拭するということです。
大統領選挙というのは、激戦州が大きくものをいいます。激戦州の場合、1ポイント、2ポイントの差で決着がつくケースが多いです。だから、ほんの少しでも票を積み上げていく。そのためには、戦略をシフトしていくというのは、意味のある、効果的な方法だと思います。いま、全米からトランプ氏に同情が集まっています。だから、非常にやりやすいタイミングでもあると思います。
Q.一方、民主党・バイデン大統領への“撤退論”が党内からも出ましたが、今回の事件で、どのような影響が考えられますか。
渡辺靖教授
撤退論は根強く残っています。ただし、共和党は、今回の事件を通して、結束を相当、強めています。それに対して、民主党は撤退するべきか、しないべきか、内輪もめの状況が続いています。これは良くないのではないかということで、「ここは、バイデン氏で結束すべき」という声も出てきています。現実問題として、勢いを増しているトランプ氏に、いま、誰が太刀打ちできるのか。若手、中堅候補にとっては、ここで敗れたら、将来のキャリアに傷つくと。バイデン氏の代わりに出にくいというのも事実だと思います。だから、今回の事件を契機に、バイデン撤退論というのは、ややしぼんでいく可能性があります。いずれにしても、はっきりしないといけない時期にきていると思います。
Q.民主党の選挙戦略は変わっていくのでしょうか。
渡辺靖教授
民主党の主要カードの1枚は『トランプ氏=民主主義の破壊者』ということだったのですが、今回の事件を受けて、そういうメッセージこそが、分断をあおっているという批判を受けかねない状況です。ですので、イメージ戦略というのは修正を迫られていく気がします。
現実的な話をしますと、9月に入ると、多くの有権者は態度を決めていくといわれています。9月上旬には、一部の州では、郵便投票や期日前投票が始まります。有権者の最大の関心はインフレです。こういう問題に対して、具体的な成果と実績で示していくのが重要。つまり、相手を批判するという従来のアプローチではなくて、これまでの実績を示して、より明るい未来像を提示していく戦略に切り替えていくのではないかと思います。
実は、この24時間の間に、民主党のなかでも、今回の事件を受けて、大統領選挙は厳しくなったのではないか。大統領選挙は、あきらめて、むしろ、議会の上下両院の多数派を確実に取りに行った方がいいのではないか。そちらにシフトすべきではないかという非常に悲観的な声も出てきています。それくらいのインパクトがあったのが、今回の事件かなと思います。
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