会談を前に握手する中国の李強首相(左)とマレーシアのアンワル首相=プトラジャヤで6月19日、マレーシア政府提供・AP

 タイとマレーシアが、中国、ロシア、インドなど有力新興国でつくる「BRICS」への加盟に向けて動き出している。参加が決まれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)からは初となる。中露主導のBRICSにとっては、グローバルサウス(新興・途上国)を代表する枠組みとして地域の多様化が進む。ただ、タイなどが期待するのは加盟国同士の関係強化による経済効果で、米欧主導の国際秩序に対抗しようという中露とは温度差がある。

タイのマーリット外相=AP

 タイのマーリット外相は6月中旬、ロシアでのBRICS外相会議に出席し、タイの加盟の意向を表明した。経済政策を最優先とするセター政権にとって、最大の貿易相手国の中国だけでなく、インドやロシアとの関係強化は国際競争力の向上につながる。今年、先んじて加盟したサウジアラビアなど中東諸国とのつながりも魅力的だ。

 ただ、タイは大国間の政治的対立に巻き込まれることは望んでいない。2014年の軍事クーデターで対米関係にひびが入り、親軍派の前政権は中国に接近した。主要産業の観光業でも中国人観光客に頼ってきたが、中国経済に陰りが見える中で、過度な依存は避けたいのが本音だ。

 セター首相は昨年8月の就任直後から、米国やサウジ、欧州などを歴訪し、自ら海外投資を呼びこんできた。バランス重視の外交姿勢を明示しており、BRICSに秋波を送る一方、欧米が主導し日本やオーストラリアなどもメンバーの経済協力開発機構(OECD)への加盟を目指す。

 一方のマレーシアは、BRICS加盟に向けて近く正式な手続きを始めるとみられる。アンワル首相は6月中旬、中国メディアのインタビューで「決断を下した」と述べた。

 マレーシア経済はタイ以上に対中依存度が高く、23年は貿易総額の約17%を占めた。マレー半島を横断し、物流の要となる予定の東海岸鉄道の建設事業にも中国企業が関わる。アンワル氏が描く経済成長の達成には、中国からの投資が欠かせない。

 ただ、中国への傾斜は政治的なリスクもはらむ。中国の李強首相が6月にマレーシアを訪問した際、中国とマレーシアなど複数のASEAN諸国が領有権を争う南シナ海問題について、「2国間の対話で解決すべきだ」との認識で両国は合意した。この問題ではフィリピンが中国への対立姿勢を強めており、ASEANとして団結するのを阻止したい中国側の意向に沿ったとみられる。

 ASEAN内ではBRICS加盟を巡って対応が分かれる。地域で唯一、主要20カ国・地域(G20)に参加するインドネシアは距離を取り、国際社会で政治的発言力を高める狙いでOECD加盟を目指している。【バンコク武内彩】

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