米連邦最高裁の判決を受け、抗議する人たち=2024年7月1日、AP

 米連邦最高裁は1日、トランプ前大統領が主張する大統領の「免責特権」について幅広く認める判決を出した。11月の大統領選で返り咲きを目指すトランプ氏にとっては追い風だ。一方でトランプ氏が大統領に復帰した場合、法を軽視した「暴走」につながりかねないとの懸念も出ている。

 保守派判事6人の多数派意見による最高裁判決に対し、リベラル派判事や有識者らから懸念や批判の声が上がった。

 「大統領と彼が仕える国民との関係は、取り返しのつかないほど変化した。あらゆる公権力の行使において、大統領は今や法の上に立つキングだ」

 最高裁のリベラル派判事3人はいずれも判決に反対した。その一人、ソトマイヨール判事は反対意見で、保守派判事らの多数派意見を厳しく批判した。「大統領の周囲に法のない地帯を作り出した」とも表現し、多数派判事らの主張は「大統領職と民主主義に悲惨な結果をもたらす」と警告した。

 同じリベラル派のジャクソン判事も反対意見で「裁判所は史上初めて、米国で最も権力を持つ公職者は自分自身が法律になりうると宣言した」と危機感を示した。

 大統領の刑事事件における免責特権について最高裁が判断するのは初めてだ。トランプ氏側は他の刑事裁判でも同様に「免責」の主張を強める可能性がある。

在任中の行為起訴「不可能に近い」

 今回の多数派意見は、憲法上の主要な権限に基づく公的な行為は「絶対的に」免責されると判断。大統領が「大胆かつためらうことなく」職務を遂行したり、訴追を恐れて意思決定がゆがめられないようにしたりする必要があると説明した。

 さらに対象となった四つの起訴内容のうち司法省高官とのやり取りについて「免責される」と判断。ペンス副大統領(当時)に圧力をかけた件も免責が推定されるとした上で、起訴によって行政府の権限と機能を侵害する危険があるかを精査するよう連邦地裁に求めた。

 米ノースカロライナ大のマイケル・ゲルハート教授(憲法学)は「公的とみなされるあらゆるものに対する広範な免責を認めるだけでなく、大統領が公的とみなすあらゆるものに対しても免責の推定を受ける権利を与えた」と指摘。「トランプ氏にとって大きな勝利であり、これを利用して残りの刑事訴追をそれぞれ遅らせるだろう」と語った。

 トランプ氏は他に3件の刑事裁判を抱えている。大統領就任前の不正会計処理事件は免責特権とは関係ないが、今回と同じ2020年大統領選を巡る南部ジョージア州の選挙手続きに干渉した事件、大統領在任中に取得した機密文書を持ち出した事件でも免責を主張するとみられる。いずれの事件も公判開始のメドが立っていないが、今回の判決を受けて裁判の日程がさらに遅れる可能性がある。

 米カリフォルニア大のリチャード・ハセン教授(法学)は「要するに、大統領在任中の犯罪行為で前大統領を起訴することは不可能に近いということだ」とし、仮にトランプ氏が大統領に返り咲けば「あらゆる犯罪行為に関与する許可を得た彼が何をするかは誰にもわからない」と懸念を示した。【ワシントン西田進一郎】

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