11月のアメリカ大統領選挙で再選を目指す現職のバイデン大統領と、返り咲きを狙うトランプ前大統領による第1回のテレビ討論会が日本時間の28日午前、90分間の論戦が繰り広げられた。
不法移民の問題、女性の中絶の権利の問題、ウクライナやパレスチナなど外交問題など、アメリカが直面する問題について、大統領候補の考えを国民が直接聞く機会でもある。両氏はそれぞれ何を語ったのか詳報する。
CNNの司会者が提示したテーマについて、それぞれのスタンスを双方が批判し合ったが、アメリカでの評価はバイデン大統領に厳しいものだったという。
■出だしは経済問題から…バイデン氏に言い間違えも
4年前の大統領選挙と同じ2人が再度相まみえる。前回の討論会では、トランプ大統領(当時)がバイデン氏の発言中に何度も言葉を挟み、混乱する場面が見られた。
今回の討論会は無観客で、片方の発言中に相手のマイクを切る対策が取られ、発言内容が分からなくなるという事態は避けられた。討論中にスタッフと連絡を取ることも禁じられ、2人の候補は自らの言葉で、1対1で対決した。
討論はインフレに直面する有権者の最大の関心事、経済問題から始まった。出だしから、バイデン氏は手痛い言い間違えをする。
「トランプ氏から引き継いだ時、アメリカ経済は急落していた。コロナ対策は酷く、多くの人々が亡くなった。それを彼は大した事はない、腕にちょっと注射すれば大丈夫だ、と言っていたのだ。経済は崩壊した。私たちが手始めにやったのは元に戻すことだった」
「我々は1万5000の新しい仕事を生み出した」
バイデン政権で創出された雇用者数は1500万人と言うべきところを、早速数字を間違えた。
トランプ氏「私は我が国の歴史上、最高の経済を打ち立てた。誰もが感嘆し、他の国も真似た」
「コロナに見舞われたが、我々は必要なお金を投じて大不況を免れた。 アメリカの経済も軍隊も信頼され、戦争もなかった。バイデン氏が生み出したのは、不法移民や元々あった仕事だけだ」
アメリカは「第三国世界のようになり、恥ずべきことだ」と繰り返すトランプ氏にバイデン氏は反論。トランプ氏が富裕層を利する2兆ドルの減税をして作った財政赤字を解消し、社会保障を維持するために、富裕層の課税を強化する税制改革をすると打ち出した。
ただ、社会保障の内容、子育てやお年寄りへのケアに触れた際、何度か言葉を繰り返し、言い淀んだところがあった。
次のページは
■女性の中絶の権利について■女性の中絶の権利について
人工妊娠中絶については2024年の大統領選挙で重要な争点の1つだ。中絶の権利については、2022年に米連邦最高裁が憲法で保障されているとした「ロー対ウェイド」判決を覆した。中絶の権利を擁護するバイデン氏と、各州で規制が進められるべきだと考えるトランプ氏で互いの非難の応酬となった。
トランプ氏「51年前、『ロー対ウェイド』判決があった。誰もが州に中絶に関する規制の判断を戻すことを望んでいた。そこで私は、3人の偉大な最高裁判事を最高裁判所に任命した。彼らは偶然にも『ロー対ウェイド』判決を見直し、州に中絶規制の判断を戻すことに賛成票を投じた。これは誰もが望んでいたことだ」
トランプ氏は、中絶問題を各州に戻すことが正しい行動だと主張。
バイデン氏「『ロー対ウェイド』判決が下されたとき、大多数の憲法学者はその判決を支持した。政治家が女性の健康に関する決定を下すべきではない。医師がその決定を下すべきだ。そして私が選出されたら『ロー対ウェイド』判決を復活させる トランプ氏
「『ロー対ウェイド』判決では妊娠後期の中絶が認められる私たちはそれが良いことだとは思わない。むしろ過激なことだ。私たちは民主党が過激派だと考えてる」
バイデン氏は、「ロー対ウェイド」判決を最高裁が覆したことを非難。
バイデン氏「51年間、女性の中絶の権利はこの国の法律だった。この男が最高裁に保守的な判事を指名したため、その法律は取り消された。そしてトランプはそのことを自慢している」
バイデン氏は、トランプ氏が保守派を連邦最高裁判事に指名したことで、人工妊娠中絶権の撤廃が可能になったとトランプ氏を非難した。
■国境管理と移民の問題について
前回の大統領選挙でトランプ氏がメキシコとの国境に壁の費用をメキシコに負担させると述べた時には荒唐無稽に思われたが、費用は別として実際に700km以上の壁が建設され、ゼロ・トレランス政策のもと、母子が引き離される事態に批判が起きた。
バイデン大統領は就任直後に、壁の建設の中止を宣言したが、メキシコからの不法移民が過去最多を更新するなど対策迫られ、去年壁の建設を一部再開。大統領選を前に事実上の国境封鎖も表明した。
まずはバイデン政権下で記録的な数の不法移民が入国し、ニューヨークやシカゴなどの大都市が負担を強いられていることや、安全上の負担が生じていることについて見解を求められた。
「超党派の合意を得るために努力し状況は変わった」
「亡命審査官を大幅に増やし、国境警備隊は私の考え方を支持している」
「トランプ氏が大統領だった時、彼は赤ちゃんをを母親から引き離し、家族を離れ離れにした。ひどいことだ」
「私たちが法律を変えてからアメリカの国境を 不法に超える人が 40%減った」「トランプ氏が政権を去った時より 良くなっている」
「これからも完全に止められるまで、さらに国境警備と亡命審査官とともにやる」
バイデン氏が発言をまとめられなかったところを、トランプ氏はすかさず突く。
トランプ氏「発言の最後で何を言っているのかよく分からないが 、バイデン氏自身もよく分かっていないのだろう」
「私たちには最も安全な国境があったのだから、そのままに しておけばよかっただけだ」
「だがそれをまた開放し、刑務所や精神科病院や施設からきた人々にテロリストに国を開いた」
「世界中からテロリストがやってきている。南米ではなく、中東やあらゆるところからこの国になだれ込んでいる」
「今や過去最も危険な国境になり、そこで人々が死んでいる」 バイデン氏
「テロリストがひとりも入って来なかったとは言わないが刑務所が空になっていて私たちが歓迎しているというのは事実ではない」
「彼が言ったことを示すデータはなく、誇張している彼は嘘をついている」 トランプ氏
「バイデン氏こそが水質汚染などで数百人 数千人を殺し、入境者はニューヨークやカリフォルニアでアメリカ市民を殺している」
「もう滅茶苦茶だ。もう国境がないからだ。今や州が 国境と化している」
「彼のバカげた、おかしな政策で流入した人が我々の市民を殺している」
「移民犯罪と言うが、私は『バイデン移民犯罪』と呼びたい」
「彼らを早く追い出さなければこの国を破壊してしまう」
次のページは
■ウクライナ、パレスチナ問題について■ウクライナ、パレスチナ問題について
外交問題に議題が移る。長期化するロシアのウクライナ侵攻について
トランプ氏「ロシアとウクライナに関して言えば、真の大統領、つまりプーチン氏が尊敬する大統領がいたら、彼は決してウクライナに侵攻しなかっただろう」
トランプ氏は、「自分の政権下ではテロは起きなかった。バイデン政権になってから、世界が混乱している」と主張。
バイデン氏「人生でこれほど馬鹿げた話は聞いたことがない。トランプが ウクライナに何をしたのか考えてみてほしい。ウクライナに関して 何でも好きなことをすればいいと トランプがプーチン氏に言ったんだ。プーチン氏を煽って 何でも好きなことをしろと言った。そしてプーチン氏はウクライナに侵攻した」 トランプ氏
「私は1月20日に就任する前に、プーチン氏とゼレンスキー氏との間でこの戦争を解決させるつもりだ。私がこの戦争を解決させる」
次のページは
■2021年1月6日 議会襲撃事件について■2021年1月6日 議会襲撃事件について
前回、2020年の大統領選挙で敗北した後、当時のトランプ大統領が選挙に不正があったと主張し、呼応した支持者らが2021年1月6日、議会が開かれていた議事堂を襲撃。民主主義の根幹を揺るがしかねない事件だと世界が震撼し、襲撃に加わった複数の人に有罪判決が出ているほか、トランプ氏自身も提訴されている。
司会者に、大統領就任時に「憲法を守る」とした宣誓に背いたと指摘する有権者にどう説明するのかと問われると、トランプ氏は答えをかわした。
「1月6日には安全な国境があり、エネルギーも自立していた。1月6日には税も低くかった」
「1月6日にはアメリカは世界中の人からすべての人から尊敬されていた。私が去ると、バカの集まりのようだと。この人(バイデン氏)のリーダーシップのもとでアメリカの評判はどうだ。ひどいものだ」
司会者が再度、質問を繰り返す。
トランプ氏「私は誰にも何も言っていない。平和的に愛国的にと言ったのだ」
そして、当時の「ペロシ下院議長が私に全責任があるとドキュメンタリーで語った」と繰り返した。
バイデン氏は、襲撃した人たちを煽り、副大統領やスタッフが何かしてくれと懇願しても何もしなかったと非難し、付け加えた。
「議会を襲撃した人たちは有罪判決を受けたが、トランプ氏は減刑したいと言った。襲撃者は刑務所に送られるべきだが、トランプ氏は釈放したいのだ」
次のページは
■トランプ氏に出ている有罪評決について■トランプ氏に出ている有罪評決について
司会者がトランプ氏が抱えている裁判について提起した。
トランプ氏「バイデン氏は重罪と言うが、あちらの 息子もそうではありませんか 重罪ですよね。 有罪になっている。私は何も悪いことはしていない」 バイデン氏
「あなたが訴訟されている犯罪を見ると、あなたは何十億ドルの罰金を払わなければいけないのか。 例えば女性を侮辱するなどさまざまなことをしてきて、ポルノスターとの性行為は(トランプ氏の)妻が妊娠している最中だった」 トランプ氏
「いったい 何を言っているのか。ポルノ女優と性行為はしていない。あの件に関しては上訴となった。とんでもない民主党の判事がいて、検察官もやはり民主党から任命された人たちだ」
「バイデン氏はこの一連の裁判のおかげで支持率があがった。選挙戦で前代未聞の規模の お金が集まってきている。向こう側が公平に勝てないから やっているのだ」 バイデン氏
「私はこんな人物が大統領に出られることを心配したから 立候補したのだ。こういう人が大統領になる資格があると思うか」
「彼が言っていること それは全てでっち上げだ」
「私たちは自分の目で 1月6日に何が起こったか目にした。窓を割って中に入り 暴徒化した人を見ていた」
「彼の40人の閣僚が トランプ氏を今回支持しなかった。その理由は彼らがよく知っているからだ。トランプ氏の下で働いて だからこそ彼を支持していないのだ」
「この男はヒットラーはいいことをやったと言った。この男には米国の民主主義のセンスがない」
■社会保障
高齢者は10年余りで給付金が削減される事態に。制度を維持するための措置をどう講じるか?
バイデン氏「裕福な人々が公平に負担すべきだ」
「現在、17万ドル以下の収入がある人は、18歳で初めて給料をもらってから、毎回給料を受け取るたびに、収入の6%を支払っている」
「億万長者が支払っているのは1%だ」
「私は富裕層に公平な負担を課し、1%から引き上げて生涯にわたるプログラムを保証できるようにする」
「トランプ氏は社会保障制度とメディケアの両方を削減したいと考えている」「高齢者を保護する必要がないという考えは馬鹿げている」
今日、米国民はかつてないほど優れた医療保険制度を持っている」 トランプ氏
「この男のように嘘をつく人を見たことがない。彼は社会保障制度を破壊している」
「何百万人もの人々が私たちの国に流れ込んでいて、彼らを社会保障制度に加入させている」
「彼らをメディケア、メディケイドに加入させて病院に入院させている」
「彼らは国民の地位を奪っている」
「退役軍人は路上で暮らしているのに、流入してきた人々は高級ホテルに住んでいる」
■育児費用
司会者はトランプ氏に育児費用を質問するも、トランプ氏はバイデン氏への攻撃に徹し「彼は史上最悪の大統領だ」と主張し続けた。
司会者がバイデン氏を指名するとトランプ氏への反論を述べた後、短く考えを述べた。
「我々は子ども税額控除を大幅に増やすべきだ」
「子どもやひとり親が仕事に戻れるように女性と男性の雇用機会を大幅に増やすべき」
「また企業に保育施設の整備を奨励すべきだ」
次のページは
■年齢問題■年齢問題
バイデン氏は2期目の任期が終わる頃には86歳、トランプ氏は82歳に。ともに高齢のため公務を遂行できるのか強く懸念されている。
バイデン氏「私はキャリアの半分を最年少政治家として批判されてきた。そして今、最年長だ。トランプ氏は3歳年下で、はるかに能力が劣っている」 トランプ氏
「私は認知テストを2回受けた。バイデン氏は受けなかった。本当に簡単なものでいいから彼もテストを受けてほしい」
■大統領選で敗北した場合も受け入れるか
司会者はトランプ氏だけに「誰が勝ってもこの選挙結果を受け入れるか」と質問をなげかけた。またしてもトランプ氏の回答は途中から話が逸れてしまい、司会者から2度同じ質問を受けて次のように回答した。
トランプ氏「もしこれが公正で合法で良い選挙ならもちろん受け入れる。他にやりたいことは何もない」
「バイデン氏のひどい仕事ぶりを見るまでは、私は本当に出馬するつもりはなかった。彼は私たちの国を破壊している」
■最終陳述
事前にコイン投げで決められた順番でバイデン氏から最終陳述を始めるも、言い淀んだり、言い間違えたりする様子が見受けられた。
一方でトランプ氏は徹底してバイデン氏への攻撃を続けた。
「我々は公平な税制を確保しなければならない状況にある。トランプ氏は財政赤字のために皆さんの税金を増やした」
「彼はパンデミック対応後に残した大失態のせいでインフレを加速させた」
「そして国内に入ってくるものすべてに10%の関税をかけることで、さらに多く課税しようとしている」
「トランプ氏はメディケアを廃止し、政府が大手製薬会社と直接薬価交渉できないようにしたいのだ」
「しかし私はインスリンの費用を400ドルから15ドル、失礼、35ドルにまで下げた」
「政府が法外な価格を支払う必要がなくなったため、10年間で連邦赤字が1600億ドル削減された。しかしトランプ氏はそれをなくしたいのだ」
「私たちは育児に関わる人々の控除を大幅に増やす。インフレを抑え、人々に休息を与えるために私たちは戦い続ける」 トランプ氏
「 この男はただ不平不満を言うだけだ。あらゆる税金をなくしたいと言うが何もしない」
「彼は何百万人もの人々が流入することを許すことで、私たちの国を危険にさらすだけだ」
「我々はアフガニスタンで愚か者のようだった」
「我々はイスラエルを止めなかった、あんな恐ろしいことは決して起こらないはずだった」
「ウクライナは起こるべきじゃなかった」
「アメリカの大統領は世界から尊敬されなければならないが、世界はバイデン氏を尊敬していない」
トランプ氏の発言には質問をはぐらかしている場面が多く、筋が通っていないところも多い。いっぽう、バイデン氏は特に序盤で表情が険しい上に、声にも覇気がなく、懸念されている年齢問題を払拭しているとは言い難かった。
実際、討論会を観た専門家は、私たちの取材に「バイデン氏の言葉は有権者に届きにくく、健康不安を加速させるだろう」と指摘した。メディアの評価もバイデン氏に厳しい言葉が並ぶ。
討論会はあと1回残っているが、バイデン氏にとって厳しい初戦になったようだ。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。