エルナンデス被告の量刑言い渡しの瞬間を見届けるため、裁判所の外に集まった在米ホンジュラス人ら=ニューヨークで2024年6月26日、中村聡也撮影

 米国へのコカイン密輸で麻薬組織と共謀した罪などに問われた中米ホンジュラスの前大統領、フアン・エルナンデス被告(55)に対し、米東部ニューヨークの連邦地裁が26日、禁錮45年と罰金800万ドル(12億8600万円)の判決を下した。

 エルナンデス被告は26日、薄緑色の服に眼鏡姿で出廷した。量刑が言い渡される前、通訳の助けを借りて、スペイン語で1時間近く身振り手振りを交えながら「演説」。「きょう、無実の人間に量刑が言い渡される」と主張した。

 さらに米国への麻薬の密輸を減らすため、自身はオバマ、トランプ、バイデンの歴代米3政権と「協力した」と強調。「私は誤って、不当に訴追された」と訴え「まるで両手を縛られて深い川に投げ込まれたようだ」と不満をぶちまけた。量刑が言い渡しされる際には被告人席から立ち、両手を机の上に置きながら、判事の言葉を聞いていた。

 閉廷すると、左手でつえをつき、足をひきずりながら退廷した。

ホンジュラスから来日して首相官邸を訪れた際のフアン・エルナンデス大統領(当時)2015年7月22日午後6時31分、藤井太郎撮影

 一方、カステル判事は、エルナンデス被告を「権力に飢えた二枚舌の政治家」と糾弾した。表向きは米国の麻薬密輸対策に協力する姿勢を見せながら、裏で麻薬組織と協力していたためで、麻薬組織が密輸を円滑に進めるための「かじ取り役だった」とも指摘した。

 さらに今回の判決が、悪事を働いても正義から逃れられると思っている「高学歴で身なりのよい」人々への警告になるとした。エルナンデス被告が関わった犯罪で犠牲となった人にとって、今回の判決が「少しでも終止符になることを願っている」と述べ、閉廷を宣言した。

 一方、裁判所には在米のホンジュラス人らが多数駆け付け、判決を待った。外ではエルナンデス政権下で汚職問題や麻薬の密輸疑惑などを追及し、殺害されたジャーナリストや弁護士、市民活動家の顔写真が並べられた。

 ニューヨーク市在住のハイメ・ザバラさん(44)は「エルナンデスを法の下で裁いてくれた米国には感謝しているが、彼の指揮下にあった軍や警察の手で多くの市民が殺された。この点を踏まえると、禁錮45年はあまりに軽すぎる。判決は不十分だ」と述べた。

 中南米は歴史的に米国への違法薬物の生産拠点、密輸ルートになっており、麻薬組織と有力政治家の癒着が以前から問題になっていた。

 中南米の犯罪組織の動向を調査する団体「インサイト・クライム」によると、中南米で麻薬の密輸に関与した罪で米国で有罪となった首脳経験者はエルナンデス被告で3人目。1992年には中米パナマの独裁者だったノリエガ将軍が、今年2月にはカリブ海の英領バージン諸島のファヒー前首相がそれぞれ有罪になった。ノリエガ将軍は禁錮40年を言い渡され、ファヒー前首相は近く量刑が決まる見通しだ。【ニューヨーク中村聡也】

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