韓国の旅客船「セウォル号」の沈没事故から10年。高校生ら300人超が犠牲になった。発生日の4月16日には、安山市で追悼式が行われた。同市には犠牲になった高校生らが通っていた高校がある。早めに市内に入って街を歩いていると、高校前で女性たちが黄色い花の鉢植えを配っていた。黄色は事故を象徴する色として使用されている。「忘れないよ」。人々は事故への思いを書いたカードを植木に差して持ち帰っていた。
花を配る取り組みは事故の翌年から地域の住民が始めた。企画した林南姫(イム・ナムヒ)(57)さんによると、「花のように美しかった子供たち」との思いを込めたという。
林さんは「幼い時から知っている生徒もいた。遺族の痛みとは比べものにならないが、地域の私たちにもトラウマになった」と語る。花の受け渡しは、市民同士が事故について話す機会にもなっている。「お互いに少しでも癒やし合えれば」と願う。
林さんたちと話をしていると、ツアーの一行が現れた。事故の風化を防ぐため、今年から始まった取り組みで、住民がガイドをし、参加費は無料。私も飛び入りで参加させてもらった。高校や慰霊碑などを回り、同僚を失った教師の話や事故後の地域活性化の取り組みなどを聞く。職場の同僚と参加したイ・スンヒョさん(28)は「私は同世代を失いよく覚えているが、当時幼かった人や、事故後に生まれた人は、事故の受け止め方が違うと思う」と指摘。「事故について知り、なぜ忘れてはいけないのかを体感できるツアーのような取り組みは重要だと思う」と述べた。
犠牲になった生徒の親や祖父母らは年齢を重ねており、林さんは遺族の健康状態が良くないことを心配していた。2022年に150人以上が亡くなったソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)での雑踏事故を念頭に、「まだ安全な世の中になっていない。国民全体で安全な社会について考えなければいけない」と語気を強めた。「(4月は)花が咲く季節だが、遺族が苦しむ横で花見を楽しむことはできない。痛みを分け合わないといけない」とも述べた。遺族だけに悲しみや伝える責任を背負わせまいとする地域の人々の思いを感じた一日だった。
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