韓国の家族法改正を呼びかける李兌栄(イ・テヨン)弁護士(中央)=韓国家庭法律相談所提供、撮影日時不詳

 NHKドラマ「虎に翼」は5月末から戦後編に入り、主人公の寅子が忙しくなってきた。連合国軍総司令部(GHQ)の指導下、民法制定や家庭裁判所設立へといよいよ動き出したからだ。ところで、ドラマには描かれていないが、日本の旧民法の家父長的な要素を変えようと奔走した女性が、お隣の国にもいる。主人公のモデルとなった日本初の女性弁護士、三淵嘉子氏と同じ1914年生まれで、韓国で女性弁護士1号となった李兌栄(イテヨン)氏(享年84)だ。

 李氏は4児の母、37歳だった52年に司法試験に合格。名前の兌は変革、喜びを意味する。「トラママ」の異名を持つ「寅子」も力強い名前だが、日本が残した旧民法が規定する男女差別の残りかすを取り除き、果敢に変えていった李氏も名が体を表している。

 韓国は48年の建国後、朝鮮戦争の混乱を経て60年に新民法が施行されるまで、日本による植民地時代の旧民法が適用。新民法にも日本の影響が残り、長男が相続などで優遇される戸主制度が90年末まで存続した。保守系団体が「戸主制度を廃止したら家庭は崩壊する」と反対したからだ。

 弁護士になった李さんは、女性のための無料法律相談を実施しながら、民主化運動に身を投じ「だれもが同じ人間」「民主化は家族法改正から」と訴え続けた。

 韓国で戸主の特権がなくなり、形骸化した戸主制となる改正法が国会を通過したのは89年12月、施行は91年元日のことだ。李氏が亡くなった後には2005年に戸主制廃止、07年に戸籍制度廃止の改正法がそれぞれ成立し、08年元日に同時に施行された。韓国は60年かけて、日本の植民地時代に使用されていた旧民法の家父長的な要素をGHQの力を借りずに大きく変えたのだ。

 「虎に翼」で寅子は、弁護士になったものの一度は挫折するが、敗戦後、新憲法を心の支えに、司法界に戻る決意をする。「私を取り巻く環境は今まで何も変わらない。でも、この憲法がある」と心の中でつぶやく場面がある。

 実際の三淵氏も、ドラマと同じように、敗戦後の変化に希望を感じたようだ。新民法草案を初めて読んだ時、女性が家の鎖から解き放たれたという感動とともに、「何の努力もなくこうした素晴らしい民法ができることが夢のようでした」と回顧している。

 日韓の女性弁護士1号の2人は、実際に会ったことがあるのか。今のところ、記録は確認されていない。あの世で夢の対談が実現したら、自らの努力で法改正を勝ち取った李氏を三淵氏はねぎらっているのではないだろうか。【堀山明子】

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