取材に応じるアルジャジーラのエルサレム支局長、ワリド・オマリ氏=ヨルダン川西岸ラマラで2024年5月13日午後1時21分、松岡大地撮影

 パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘を続けるイスラエルが、外国メディアへの規制を強めている。イスラエル政府は4月、「国家の安全に害を及ぼす」と認定した外国メディアの活動を禁止する法律を策定。5月にはガザ地区から報道を続ける中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」が活動を禁止され、6月9日には禁止期間が45日間延長された。

 「民主主義国家」イスラエルのメディア規制について、その背景に迫ります。今回は第1回。
第2回 「欧米メディアをガザに入れるべき」 右派NGOの主張
第3回 「メディア規制を戦闘拡大に利用」イスラエル・左派研究者の分析(14日11時公開予定)

 なぜ、外国メディアが敵視されるのか。アルジャジーラのエルサレム支局長、ワリド・オマリ氏に聞いた。【聞き手・ヨルダン川西岸ラマラで松岡大地】

 ――イスラエル政府の決定後、何が起きたのですか。

アルジャジーラが中継拠点にしていたホテル。イスラエル当局によって機材が押収された=2024年6月2日午後3時17分、松岡大地撮影

 ◆アルジャジーラは東エルサレムのホテルの一室を中継拠点として使っていた。そこにイスラエル警察がやってきて、機材を押収した。エルサレムの事務所は閉じ、イスラエル国内では放送が止まっただけでなく、取材活動もできない。一部の記者やカメラマンは休暇を取っている。(パレスチナ自治政府が一部統治する)ヨルダン川西岸などでは取材活動ができており、取材に加わってくれている記者もいる。

 ――決定をどう見ていますか。

 ◆恐ろしい決定だ。(イスラエルが以前から敵視する)アルジャジーラやアラブメディアに限らず、すべてのメディアにとって脅威だ。現在、ネタニヤフ政権の一角を担う極右政党は、パレスチナに対して強硬的な態度を見せており、もし彼らが(パレスチナについて報じる)外国メディアへの圧力をより強めれば、どの記者も今後、イスラエルで自由に活動することが難しいと感じ始めるはずだ。

イスラエル・パレスチナ自治区

 ――イスラエルは「中東唯一の民主主義国家」とも言われてきました。

 ◆70年以上、占領政策を続け、民主主義国家と呼ばれる国を私は聞いたことがない。気に入らないメディアの活動を止め、人々の口を閉ざそうとする民主主義国家を見たことがない。少なくとも民主主義の原則の中には「言論の自由」「報道の自由」は含まれるはずだ。

「鏡」を壊すイスラエル

 ――なぜイスラエルはアルジャジーラを標的にすると思いますか。

 ◆イスラエルが遂行する戦争の実態を伝えているからだ。アルジャジーラは24時間体制で、ガザ地区で多くの人が犠牲となっている現実を伝えている。それは自らの戦争の結果だ。イスラエル政府は自らの姿が映る「鏡」を壊したいのだ。ネタニヤフ政権は自分の声だけに耳を傾け、自分が見たいものだけを見ようとしている。

アルジャジーラの事務所には2022年、イスラエル治安部隊の「対テロ」作戦の取材中に銃撃を受けて亡くなったシリーン・アブアクレ記者の写真などが飾られていた=ヨルダン川西岸ラマラで2024年5月13日午後1時23分、松岡大地撮影

 ――アルジャジーラを「テロリストのチャンネル」と批判しています。

 ◆ネタニヤフ政権は、アルジャジーラの記者の中にイスラム組織ハマスの戦闘員がいたと非難している。しかし、この記者は2月、ガザ地区最南部ラファの空爆で右足を切断する重傷を負い、治療を受けるため、イスラエルの許可を得てカタールに退避した。ハマスと関わりがあるのなら、なぜイスラエルはガザから出る許可を出したのか。これはフェイクニュースの一種だ。

 我々はどちらか一方に肩入れはしない。イスラエルとパレスチナ双方の取材をしてきた。しかし、西岸やガザでのできごとを客観的に報道することは簡単ではない。我々の同僚も、西岸でイスラエルの占領政策に苦しんでいる。ガザでは、あまりにも多くの市民が空爆で犠牲になっている。

検問所の前では常に渋滞が発生している=ヨルダン川西岸地区で2024年5月13日午後3時42分、松岡大地撮影

「被占領者」の批判は難しい

 ――ハマスの越境攻撃では約1200人が亡くなりました。アルジャジーラはハマスを批判できますか。

 ◆当然、いかなる市民に対する暴力にも反対だ。しかし、ハマスやパレスチナ自治政府などを批判することは難しい。いずれも、イスラエルの占領や封鎖政策の下にあり、犠牲者でもあるからだ。人は通常、国家の一員として保護されている。しかし、パレスチナ人は違う。ユダヤ人入植者によって土地を奪われるなど、常に生存を脅かされている。例えば(西岸の主要都市)ラマラからエルサレムまでは通常なら車で15分の距離だ。しかし、イスラエルがテロ対策を名目に街の出入り口を封鎖し、検問所を設置したことで、時には2時間以上かかる。彼らは人々の生活を破壊している。

 ――活動停止の決定に、今後、どう対応していきますか。

 ◆イスラエルの最高裁に決定を取り消すように申し立てており、最高裁がこの状況を早く終わらせることを願っている。アルジャジーラへの措置に大きな批判が出ない場合、ネタニヤフ政権は他のメディアに対しても規制する動きを見せるだろう。我々とともに声を上げてほしい。

ワリド・オマリ

 1957年イスラエル北部のアラブ人の村、サンダラ生まれ。ガザ、イスラエル、ヨルダン川西岸の約60人の局員を率いる。96年からアルジャジーラで活動。エルサレムと西岸のラマラを活動拠点としている。

アルジャジーラ

 中東カタールに本社を置く衛星テレビ局。カタール政府から財政支援を受けている。同社ホームページによると中東、アフリカのほか、欧米、アジアなど70以上の支局を持ち、英語、アラビア語などで放送している。

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