5年に一度の欧州議会選挙が行われ、予想されていた通り極右政党の躍進が目を引いた。とはいえ現職のフォンデアライエン委員長を支持する政党の集まりが過半数を維持できる見通しでEUがすぐに何らかの方針を変更することはなさそうだ。しかし、フランスでは事情が違う。マクロン大統領の政党が極右政党に大敗した。しかも圧勝した極右政党の党首は“極右アイドル”と呼ばれ熱狂的な支持を集める28歳の若者だった…。

「権力を握ったことのない唯一の政党は“極右”」

欧州議会選挙(全720議席)はEU加盟国に、人口に則し割り当てられた議席数をそれぞれの国で選挙する。ドイツに次ぐ議席数を持つフランスでは、マクロン大統領率いる与党連合の得票率が極右と言われる『国民連合』の半分にも満たなかった。国民連合は高らかに勝利宣言し、次期国内総選挙への意欲を述べた。

『国民連合』マリーヌ・ルペン前党首
「次の総選挙で国民の信任が得られれば権力を行使する用意がある。はっきり言おう!我々は国を再建しフランスを蘇らせる用意がある」

『国民連合』を実質率いるのは大統領選でマクロン氏と戦ったマリーヌ・ルペン氏だが、現在の党首はジョルダン・バンデラ氏28歳だ。バンデラ氏はSNSを駆使して若い世代の支持を集め、TikTokのフォロワー数は140万越えという、まさに“極右アイドル”だ。

SNSでは気さくでフレンドリーな動画をアップする、颯爽とした背の高いイケメン…。だが、集会での演説では、極右らしさ全開だった。

『国民連合』ジョルダン・バンデラ党首
「フランスの消滅は既に様々な地域で始まっている…(中略)国家の安全の脅威となる外国人の軽犯罪者・重犯罪者・イスラム主義者を国外退去させる。(中略)マクロンのヨーロッパに対抗しよう。一切譲歩してはいけない。フラン人であれ、これからも永遠に…」

移民排除、イスラム排除、自国ファーストを訴える熱弁に若者中心の支持者たちは国旗を振って歓声をあげていた…。この熱狂は何なのか? 極右を研究する専門家に聞いた。

国際関係戦略研究所 ジャンイブ・カミュ氏
「バンデラ氏の人気は非常に高い。彼がまだ28歳で、フランスの政治の基準からするととても若いという事実が関係してる。調査では18~24歳の支持率が29%だった。若者は自分の将来についてかなり心配している。2年前に年金改革があり、若者は67歳か68歳まで働くことが必要になった。68歳まで働いてキャリアの終わりに受け取る年金はそれほど多くない。彼らは何か他のことを試したいのだ。共産主義も普通の選択肢だが、権力を握ったことのない唯一の政党は“極右”だ。それで試してみよう。もし上手くいかなければ私たちは行動を起こして変化するという考え方になる」

“極右が常態になった”

去年12月のフランスの世論調査では“国民連合は危険ではない”と答えた人(45%)が“危険である”と答えた人(41%)を上回った。
日本で極右と言えば、極端な愛国主義、国粋主義、ファシズムのイメージだが、フランスではそれが危険ではないと思う人が主流になりつつあるようだ。
そもそも極右の定義とは何か…。ヨーロッパ政治に詳しい東野教授に聞いた。

筑波大学 東野篤子 教授
「あえて極右という言葉を使うなら、テキストの80%で生活を守るとか(ソフトな政策)であったとしても残る20%にうまくイスラム排斥、移民排斥とかが入ってるのであれば“それは危険”でヨーロッパでは排除すべき思想なんです。定義の問題ではなく“極右”というネガティブな言葉を使い続けることで、こうした排斥主義的な人がいますよっていう注意喚起をしている…」

つまりフランス人が“極右”を望んでいるのではなく、排斥主義的思想が広まらないように国民連合などに“極右”というレッテルを貼っているということで有権者にその言葉が届いているわけではないようだ。

筑波大学 東野篤子 教授
「マリーヌ・ルペンのお父さん(国民連合初代党首)の頃とはだいぶ洗練されてきて、いいじゃない、大丈夫じゃないと思わせるような極右が今の極右」

選挙の度に“極右の台頭”と言われ続けているうちに“極右が常態になった”のかもしれない。ニュース解説の堤氏は言う

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤信輔氏
「今の極右はポピュリズムなんです。分かりやすく言えば人々の耳に聞こえのいいことを言ってちょっとだけ反移民とか混ぜ込んでいく。(中略)根底にあるのは自国第一、そこはトランプ氏に似てる」

「政権運営させてコケさせる」

欧州議会選挙で大敗を喫したマクロン大統領は、驚くことに議会の解散を発表、フランス総選挙を今月中に実施するという賭けに出た。
日本なら逆風時は解散を少しでも先延ばしにするところだが、マクロン大統領は「皆さんに選択権を返すことに決めた」としてその夜の解散に踏み切った。
元朝日新聞ヨーロッパ総局長で、現在東京大学・特任教授の国末憲人氏は言う。

東京大学先端科学技術研究センター 国末憲人 特任教授
「今回の欧州議会選挙は国に直接関係ないので割と気軽に投票できた。国内の総選挙や大統領選になると(国民も)気を使うと思う“やっぱり右翼はやめておこう”って…」

一方、マクロン大統領には彼なりの勝算があって解散するのだと教授は言う。もちろん裏目に出る可能性もあるが…

東京大学先端科学技術研究センター 国末憲人 特任教授
「マクロンはリスク取るの好きなんです。それを恐れない人物。リスキーだけどやる。(中略)任期はあと3年あるがこのままやってると国民連合に人気がどんどん高まる、と思ってます。で3年間レームダックになるよりも一か八かに出た方がいいという判断…」

東野教授もマクロン大統領の目論見を4つ挙げた。

筑波大学 東野篤子 教授
「一番大きいのはフランスの選挙で極右が大勝ちすることはよくあるんですが、大勝ちした後に揺り戻しがあるんですね。“こんなに極右が勝ってしまってはマズい”って…。2番目は、マクロンは国民連合が上手く政権運営できるとは思ってない。なのでもし過半数取って最悪ルペン氏やバルデラ氏が首相になってしまっても、政権運営させてコケさせる。3番目として、フランスの大統領権限は絶大なので、たとえ議会で過半数取られてもやっていけるという自信ですね…。4番目にはマクロンの視点はあくまでも2027年の大統領選挙。そこにルペンは出る気マンマン。だからなんとか国民連合に失敗をさせておく。それでルペン大統領誕生の芽を摘んでおく…」

それにしても大統領が46歳。首相が34歳。ライバル党首が28歳。登場人物の中で最年長のルペン氏でも55歳。それに比べて日本は…、と考えるとイデオロギーを度外視して羨ましい…。

(BS-TBS『報道1930』6月10日放送より)

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