先月、日本・中国・韓国の3か国による首脳会談が4年半ぶりにソウルで開かれた。これが再開した裏には中国の事情が大きいと言われている。経済の低迷が取り沙汰される中国の思惑を読み解く…。

「これ、中国の危機感を表してる」

3か国会談でソウルを訪れた中国・李強首相は、サムスン電子の会長と会談した。サムスン電子は韓国最大の財閥サムスングループの中核を成すテクノロジー企業。李強首相がソウル滞在中、個別に会った唯一の企業だ。ここで李強首相はサムスンの会長に対し「中国の大市場は常に外資系企業に開かれている」と語り対中投資の拡大を歓迎する旨を伝えたと中国外務省は発表した。これは何を意味するのか?
「李強首相は尹大統領と会った直後すぐにサムスンに向かったんです」と語るのは日本経済新聞の元ソウル支局長、峯岸博氏だ。

日本経済新聞 峯岸博 上級論説委員兼編集委員
「私がソウルに駐在していた時に文在寅大統領が訪中して莫大な投資を約束して、工場が今もたくさん残っている。一方でアメリカは対中関税引き上げなど規制をしてます。中国はこれに非常に危機感を覚えてますので、韓国を代表するグローバル企業しかも半導体のトップであるサムスンを自分たちの方に巻き込むためにわざわざ自分が会いに行った…これ、中国の危機感を表してる…

グローバル企業サムソン側にとっても尹大統領のアメリカ一辺倒の姿勢には賛成していない。実は韓国の製造業は今、尹大統領の方針に悲鳴を上げていた…。

ソウル郊外、古くから町工場が軒を連ねたムンレドン(文来洞)。しかし反中国の尹政権になってからは中国との取引が激減。町もすっかり静かになってしまった。
町工場の経営者は言う…。

イムさん(金属加工業)
「アメリカの顔色ばかりうかがっていても上手くいかないと思う。台湾問題に不必要に割り込んで出しゃばってはいけないと思う。台湾の問題にも不必要に割り込んで出しゃばってはいけない…わざわざ中国とぎくしゃくする必要はない。それなのに尹錫悦はバイデンに従ってやっていることは理解できない…」

また、以前中国に金型を卸していた工場の社長は、一度中国市場から手を引くと、もう戻れないと嘆く。

工場経営者(金型製造)
「散々だよ…。中国にたくさん金型の業者がいるんでそっちに仕事を取られたんだよ」

事実、韓国の輸出額は従来対中国が最大だった。だが尹政権発足後、対中国輸出は激減。ついに去年12月アメリカが最大の輸出国となった。

日本・中国・韓国3か国間の関係を促進するために作られた機関の事務局長は「最近の傾向は脱グローバル化と保護貿易主義が強まっている状況だ」と語ったうえで、あるべき姿を語った。

日中韓三国協力事務局 李熙燮事務局長
日米韓の関係は安全保障共同体と規定できる。日本、韓国、中国の協力は一種の生活と経済共同体と規定することができる。(中略~どちらも必要不可欠なので)安保共同体は安保共同体として経済共同体は経済共同体として維持発展させていくべき」

かつては磁石のような力を持っていた中国だが、今は吸引力が無くって去ることもある

生活・経済共同体として中国とも上手に付き合っていくべきは、日本も同じだ。
李強首相は「中国の大市場は常に開かれている」と言っていた。しかし、今の中国経済は李強首相が謳うほどのものではないと話すのは元駐中国大使の宮本雄二氏だ。

元駐中国大使 宮本雄二氏
「こないだまで中国は『我が国には巨大な国内市場がある。この国内市場を無視して外国企業は生き延びられるだろうか。だから外国企業は中国にとどまるはずである』って言ってたんですよ。中国はこの国内市場をもってすれば外国はすり寄ってくるっていう前提で経済関係を考えていた。でも今そうじゃないでしょ。(中略)かつては磁石のように外国企業を引き付ける力を持っていた。でも実際はそんなに吸引力は無くって、場合によっては去ることもあるんだって中国は知って、今必死になって外資に再投資、新たな投資をってやってますよ」

経済面で下降の一途を辿る中国だが、軍事面に目を向けると、習近平氏が驚くような人事を行っていた…。

「人民解放軍は夫婦で店を経営する感じになっている」

“中国・習近平国家主席の妻、彭麗媛氏(61歳)”と言っても日本ではあまり取り上げられることもなかっただろう。しかし、中国ではかなりの有名人だ。日本の週刊誌でも“美空ひばりのような国民的歌手”と紹介したものもある。歌手として来日し『四季の歌』を日本語で歌う姿も映像に残されている。この夫人を習近平氏は軍の幹部に抜擢していたことが分かった。元々軍所属の歌手なので軍に属していることは不思議ではないが、ただの幹部ではなくかなり力を持った存在だという。
番組が話を聞いたのは中国軍に20年在籍し、海軍司令部中佐まで務めた人物。現在はアメリカに亡命している。

中国海軍 元中佐 姚誠氏
「軍内部の人間に確認したところによると、2017年7月より彭麗媛氏は中国共産党軍事委員会政治工作部幹部審査評議員会の上級評議員に就任していた。(中略~現在)彼女には絶対的な権限がある。習近平氏が彼女をそのポストに据えるのは彼女を通じて軍全体の幹部の任免を厳しくチェックするためである。軍隊の将官以上の幹部に対して審査を行い昇進させたい場合は軍事委員会の承認を得なければならない。その過程に入る前に彭麗媛氏は自分の意見を述べる。彼女の意見は習近平の意見であり、基本的にはそこで決まる。その他の委員の審査は形だけのものだ」

習近平氏は汚職疑惑などの軍高官を多数粛清したが、ここにも夫人の関与があったのでは…とされる。

中国海軍 元中佐 姚誠氏
「誰も彼女に逆らえない。彼女に逆らうことは習近平氏に逆らうこと。それは不可能だ。(中略)中国軍で分かっていること…、その第一は習近平氏を恨んでいる。第二は軍隊は彼を見下している。彼は軍隊のことを知らないから軍隊改革は大きな失敗に終わった。第三は縁故関係だけで人を採用する。(軍は)夫婦で店を経営する感じになっている…(中略)習近平氏のすべての意見は彭麗媛氏から来ているんだ」

姚誠氏が語った彭麗媛氏の現在の肩書は香港メディアも報じている。

元駐中国大使 宮本雄二氏
「(絶対的権力を持つと)最後は自分に近い人しか信用できなくなるというのは人間の常なんですね。彭麗媛さんと、あ、“さん”なんて言っちゃいけないのかな…。夫人と習近平主席はなかなか仲睦まじい夫婦なんですよ。二人の信頼関係は非常に強い…。毛沢東夫人は文化大革命で活躍したでしょ。周恩来さんの夫人も大変活躍した。夫人が活躍することは中国政界では過去にもあった。ただ、習近平さんは全てを彭麗媛さんに依存することはない…」

どうやら中国の軍隊と国家主席との信頼関係はかなり危ういようだが、これをアメリカはどう見ているのだろうか?

明海大学 小谷哲男教授
「昨年から今年にかけてアメリカの情報機関がメディアにリークしている情報を総合すると、2027年までに台湾に侵攻できるようにと習近平氏が指示を出したのだが、そう簡単なものではなく…、努力はしたものの追いついていかない。それが習近平主席の逆鱗に触れて、反汚職キャンペーンとなって多くの人がパージされ…、それが軍の不満を生んだのは間違いないというようにアメリカの情報機関は見ています。なので、とても今人民解放軍は大きな戦争をできる状態ではないと米政府高官から聞いた…」

何はともあれ“戦争できる状態ではない”ということは、いいことではある…。

(BS-TBS『報道1930』5月27日放送より)

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