「ありがとう、バイデン」と書かれた横断幕などを掲げ、人質解放を求めるデモに参加する人たち=エルサレムの大統領官邸前で2024年6月1日午後9時55分、松岡大地撮影

 バイデン米大統領が5月31日に「イスラエルの提案だ」として発表したパレスチナ自治区ガザ地区の停戦案を巡り、イスラエルのネタニヤフ政権が早くも消極的な姿勢を示している。イスラエル首相府は1日、イスラム組織ハマスの「壊滅」を実現する前に恒久的な停戦をするのは「成功する可能性がない計画だ」とする声明を出した。停戦案に反発する政権内の極右閣僚に配慮したとみられる。

 一方、イスラエル国内では、停戦案の受け入れを求める声も高まっている。ネタニヤフ首相は今後難しい決断を迫られるとみられ、ハマスとの間接交渉は曲折が予想される。

 バイデン氏が発表した停戦案は、3段階で構成される。第1段階で6週間にわたる休戦をし、一部の人質などを解放。第2段階で「恒久的な敵対関係の解消」などを実現し、第3段階でガザ地区の復興計画を実行するというものだ。ネタニヤフ氏を含むイスラエルの戦時内閣はバイデン氏の案を承認し、仲介役を通じてハマスに伝えた。

 だが、戦時内閣のメンバーではなく、パレスチナに強硬な極右政党「宗教シオニズム」の党首、スモトリッチ財務相は1日、ネタニヤフ氏が停戦案を履行した場合、政権から離脱すると主張。同じく極右政党「ユダヤの力」の党首、ベングビール国家治安相も「発表された停戦案はハマスの壊滅を諦めることを意味し、無謀な取引だ」と非難した。

 ネタニヤフ氏が極右政党に配慮せざるを得ない背景には、国会(定数120)の議席数が関係している。連立与党は64議席なのに対して、野党は56議席で、差はわずか8議席しかない。二つの極右政党からなる政党連合は14議席持っており、仮に政権から離脱すると、過半数を失い、ネタニヤフ氏の政権運営は行き詰まる可能性がある。

 一方、24議席を持つ中道野党「イエシュアティド」の党首、ラピド前首相はネタニヤフ氏が停戦案を履行した場合、政権が崩壊しないように支えると述べ、停戦案の受け入れを迫った。

 また、商都テルアビブなどイスラエル各地では1日、停戦案の受け入れと人質の解放を求める反政府デモが、昨年10月7日のハマスによる越境攻撃以降、最大規模で起きた。

 バイデン氏は5月31日の演説で、イスラエル側に「戦争を継続することを求める(極右の)人々がいることを知っている」と述べ、イスラエル側に交渉に真摯(しんし)に取り組むように求めていた。極右勢力による反対でネタニヤフ氏が停戦に尻込みすることを事前に織り込み、圧迫を強める狙いだったとみられる。

 イスラエルとハマスの交渉を仲介する米国とカタール、エジプトは1日、双方にバイデン氏が発表した停戦案を受け入れるよう求める共同声明を出した。【エルサレム松岡大地、ワシントン松井聡】

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