ロシアとの国境に近いボウチャンスク付近で守備の任務に就くウクライナ兵=ウクライナ東部ハリコフ州で5月19日、ロイター

 ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍が、東部ハリコフ州に新たな攻勢を始めてから3週間が経過した。露軍は、ウクライナ軍がハリコフ州の防衛に集中する隙(すき)を突く形で、隣接するドネツク州で占領地域を広げている。ゼレンスキー大統領は現況を2022年の侵攻開始以降「最も厳しい」レベルだと表現し、危機感を強めている。

 ウクライナメディア「キーウ・インディペンデント」によると、露軍は5月10日の攻勢開始から5日後には、両国の国境から5キロのハリコフ州北部ボウチャンスクの一部まで到達した。米シンクタンク「戦争研究所」も同21日、露軍はボウチャンスク方面へ最大7キロ、州都ハリコフ市方面に最大10キロ進軍したと分析している。

ウクライナにおけるロシア側占領地域

 戦争研究所の5月15日の報告では、ロシア領内からのミサイルなどによる激しい攻撃のため、ウクライナ軍はハリコフ州で国境から10キロ以上離れた位置にしか防衛線を築けなかったとの州政府の見解が紹介された。国境付近の防衛が手薄だったことや、欧米諸国からの武器の供給が遅れていたことが、露軍の進攻を後押しした可能性がある。

 プーチン露大統領は同17日の記者会見で、ハリコフ州について、相手側から露国内への越境攻撃が激化しているとして「緩衝地帯を作らざるを得ない」と主張した。国境から二十数キロ離れたハリコフ市を占領する計画は「現時点ではない」と述べている。一方で、ウクライナ第2の大都市である同市へのミサイルなどでの遠隔攻撃は拡大しており、同25日の大型商業施設への攻撃では市民十数人が死亡した。

 ハリコフ州での戦闘は続いている模様だが、ウクライナ軍高官は同24日の発表で「状況は厳しいが我々の側のコントロール下にある」と述べた。露軍の進攻は一定の地点で食い止められているようだ。

 ただ、ロシア側には、ウクライナ軍の勢力をハリコフ州に集中させておき、その裏で隣の東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州一帯)での攻勢を優位に進める狙いもあるとみられる。

ロシアのミサイル攻撃で大破した青少年施設=ウクライナ東部ハリコフ近郊で5月30日、ロイター

 ゼレンスキー氏は5月20日のロイター通信とのインタビューで「ドンバス地方での戦闘が激化していることに誰も気づいていない」と述べ、露軍の「陽動作戦」がある程度成功しているとの見方を示唆した。

 露軍はドネツク州の要衝チャソフヤールの制圧を目指して徐々に前進しているほか、2月にウクライナ軍が撤退した同州アブデーフカの西方の町でも激しい戦闘が起きているという。ゼレンスキー氏はロイターの取材に、最近の戦況について「(侵攻開始以来)最も厳しいものの一つ」と危機感をあらわにした。

 露軍のハリコフ州での戦果は現時点では限定的とみられる。ただ、露軍は増援部隊をハリコフ州に隣接する露南部ベルゴロド州に集結させており、攻勢の「第2波」も予測されている。【ベルリン五十嵐朋子】

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