イランによるイスラエルへの初の直接攻撃は、中東の地域秩序がいかに危うい均衡の上に成り立っているかを白日の下にさらした。昨年10月から続くパレスチナ自治区ガザの戦闘が紛争の広域化につながらぬよう腐心してきたバイデン米政権は、事態が制御不能な報復合戦に陥るのを防げるかの重大局面に立たされた。
バイデン大統領は米東部時間13日午後3時半ごろ、週末を過ごす東部デラウェア州の別邸での滞在を切り上げ、専用ヘリ「マリーン・ワン」に乗り込んだ。ホワイトハウスに政権の安全保障チームを緊急招集し中東情勢を協議するためだ。4時半にはイランがイスラエル攻撃を開始したことを公表。大統領執務室に入ったのは、午後5時(イスラエル時間14日午前0時)過ぎだった。
ホワイトハウスの会議にはオースティン国防長官、ブリンケン国務長官、ブラウン統合参謀本部議長、バーンズ中央情報局(CIA)長官、ヘインズ国家情報長官、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ら政権ブレーンが結集。ハリス副大統領とザイエンツ大統領首席補佐官もオンラインで参加した。
防空システム「アロー」などを備えたイスラエル軍は、イランが発射した中距離弾道ミサイルや無人機、巡航ミサイル計約300発の大部分を撃墜。東地中海の米軍駆逐艦も一部の弾道ミサイルを撃ち落とすなど強力な連携を見せつけた。
バイデン政権の主眼は、イスラエル防衛支援に全力を挙げる半面、事態を可能な限り制御することにあった。バイデン氏は13日夜、同国のネタニヤフ首相と電話会談。米ニュースメディアのアクシオスによると、バイデン氏は「イランへの報復攻撃に米国は協力しない」ことを伝え、「あなたは勝った。この勝利を手にすべきだ」と反撃を自制するよう説得したという。
イランの攻撃は、シリアにあるイラン大使館が今月1日、イスラエルによるとみられる攻撃を受けたことへの報復だ。イランは2日時点でその意思を表明していることから、撃墜されるのを前提に直接攻撃を行い、面目を保つことが主目的だったとも指摘される。ロイター通信によると同国外相は14日、周辺国と米国には72時間前に攻撃を通告したと説明した。
ただ、米政府高官は「事前警告はなかった」「攻撃は破壊を目的としたもの」としており実態は不明だ。
いずれにせよ、迎撃に失敗してイスラエルに大きな被害が出ていた場合、バイデン政権が同国に反撃を思いとどまらせるのが格段に難しくなったのは間違いない。報復の連鎖で地域が不安定化すれば、バイデン政権が重視するインド太平洋戦略やウクライナ支援に影響する恐れもある。石油調達の約9割を中東に依存する日本への打撃は甚大だ。
米政府高官は14日、「コントロール不能なエスカレーションを引き起こしてもおかしくなかった」と語った。(ワシントン 大内清)
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