最終弁論に臨むため出廷したトランプ前米大統領=米ニューヨークで2024年5月28日、AP

 トランプ前米大統領(77)が不倫の口止め料を不正に会計処理したとされる事件の公判は28日、東部ニューヨーク州の裁判所で結審した。最終弁論で検察側は、口止め料の支払いを隠すための業務記録の改ざんは「米国民に対する詐欺行為だ」と非難した。一方、弁護側は「検察側は(犯罪を)立証できていない」と無罪を主張した。有罪か無罪かを話し合う陪審員の評議は29日に始まる。大統領経験者で初めて刑事事件の被告となったトランプ氏の裁判は大詰めを迎えた。

 「正義のため、ニューヨーク州の人々の名の下に被告を有罪とするようお願いする」。検察側は約5時間に及んだ最終弁論の最後に陪審員にこう訴えた。

 起訴状などによると、トランプ氏は初当選した2016年大統領選の直前、不倫スキャンダルをもみ消すため、当時の顧問弁護士マイケル・コーエン氏(57)を通じて元ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏(45)に13万ドル(約2044万円)の口止め料を支払った。その後、自身の親族企業を通じてコーエン氏に弁済した際、業務記録に「弁護士費用」と偽って記載し、会計処理したとされる。

 検察側は、トランプ氏やコーエン氏らが、大統領選で不利になる情報を有権者に隠すため、事前に把握して握りつぶす「キャッチ・アンド・キル」と呼ばれる隠蔽(いんぺい)工作を画策したと指摘。ダニエルズ氏への口止め料の支払いはその一環だと主張し、同氏の発言を封じ込めたことが「トランプ氏を当選に導いた可能性がある」とした。

 検察側は立証のために20人の証人を呼んだ。証人尋問の中でコーエン氏は、トランプ氏から「とにかくやれ」と言われたと述べ、口止め料支払いを直接指示されたと証言。ダニエルズ氏も口止め料を受け取ったと認めた。弁護側にでっち上げだと指摘されると、ダニエルズ氏は「映画の中の情事はとてもリアルだ。あの部屋で起こったことのように」と反論した。

弁護側の最終弁論を聞くトランプ前米大統領(左下)=法廷イラスト、AP

 今後の評議での焦点は、陪審員がトランプ氏の不正への関与の度合いをどう判断するかだ。ニューヨーク州法では業務記録の改ざんは禁錮1年未満の「軽犯罪」だが、検察側は選挙で勝つための不正など他の犯罪を隠すためであれば最高で禁錮4年の「重罪」に当たると指摘している。

 一方、弁護側は口止め料の支払いはコーエン氏の独断だと主張。支払いは弁済ではなく、顧問弁護士としての業務に対する正当な法務費用だったと述べた。

 また、コーエン氏の証言の信頼性を巡っても陪審員の判断が注目される。弁護側はコーエン氏が過去に別の事件で議会に偽証したことなどを取り上げ、信頼性に疑義を呈してきた。最終弁論でも同氏を「史上最悪のウソつき」と呼んだ。

 評決は全員一致が条件で、有罪になれば判事が量刑を言い渡す。米CNNは28日、トランプ氏側は、評決が一致しない場合に判事が審理無効を宣言するのが最良だと見ていると報じた。

 刑事事件の裁判に詳しいニューヨーク・ロースクールのアンナ・コミンスキー教授は、公判では有罪になる証拠が十分出たとする一方で、弁護側は反対尋問で、コーエン氏の証言の信頼性を弱めようとしたと指摘。陪審員がトランプ氏を「有罪とするか、無罪とするかは確率で言うと半々だ」と述べた。【ニューヨーク中村聡也】

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