練習艦「かしま」=海上自衛隊ホームページより

 電波のチカラでZ世代の船乗りを増やせるのか――。海上自衛隊は、艦艇の乗組員が遠洋航海中も私物のスマートフォンでスムーズに通信できるよう、米スペースX社の衛星通信サービス「スターリンク」の試験運用を始める。世界を巡る遠洋練習航海で通信速度などの使い勝手を検証し、3年程度かけてほぼ全ての艦艇への導入を目指す。敬遠されがちな長期の海上勤務を少しでも快適にするとともに、自衛官志願者の増加につなげたい考えだ。

スターリンクって?

海上自衛隊の練習艦「かしま」に設置された衛星通信サービス「スターリンク」用の白いアンテナ=東京都中央区晴海で2024年5月15日午前10時45分、松浦吉剛撮影

 スターリンクは、地球から約500キロの低軌道を周回する多数の人工衛星を利用。従来の衛星通信サービスに比べ、衛星をより地表に近い軌道で周回させるため、高速通信が可能とされる。

 海自の艦艇ではこれまでも、乗組員がそれぞれの端末から家族や友人にメールや画像を送ることができた。ただ、高軌道の衛星を利用しているため通信速度が遅く、タイムラグが生じていた。こうした職場環境は、いつでもインターネットを使えるのが当然と考えるZ世代など若い隊員にはストレスとされ、耐えられずに辞めてしまうケースもあったという。

アンテナやWi―Fiルーターを設置

練習艦「しまかぜ」=海上自衛隊ホームページより

 自衛隊は法律上の定員を満たせない状態が常態化し、昨年3月末の充足率は92・2%だった。海自は海外の任務や訓練が増える半面、特に艦艇の分野で人繰りが厳しい状況となっている。船乗りの魅力を高めようと、職場環境の改善策を検討していた。

 海自は今春、練習艦「かしま」と「しまかぜ」に、スターリンク用のアンテナを2基ずつ取り付けた。2隻は今月20日から11月11日までの間、遠洋練習航海で11カ国に寄港しながら世界を巡るため、各地での通信状況や機器の耐久性を検証するのに最適と判断した。

 艦内の食堂にWi―Fi(ワイファイ)ルーターを設置し、乗組員が休憩時間に通話やメール、動画配信サービスなどを自由に利用できるようにする。秘密保全とのバランス、各乗組員へのデータ通信量の割り振りなどは、試行錯誤しながら部隊で決めていくという。かしまの幹部隊員は「寄港地で家族に手紙を出していた時代から比べると、隔世の感がある。通信環境の変化を楽しみにしている。寝室に寝転がりながら、乗組員がスマホを使えるようになれば」と話した。【松浦吉剛】

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