母乳が出ない母親に代わり、早産などで小さく生まれた赤ちゃんに寄付された母乳「ドナーミルク」を提供する「母乳バンク」。増加する需要に応えるために、13日には供給力を3倍に向上させる提供拠点がリニューアルオープンしたが、「小さな命を支える」取り組みは、運営資金面での課題も抱えている。【近藤綾加】
国内の母乳バンクは、一般社団法人「日本母乳バンク協会」と一般財団法人「日本財団母乳バンク」の2法人で運営され、国内には3カ所ある。無償提供されたドナーミルクは、医療機関からの要請に応じ、低温殺菌処理などを施した上で提供されている。
ドナーミルクの提供は、早産などにより体重が1500グラム未満と通常より小さく生まれた新生児が対象。
同協会によると、早産児は体の器官が十分に発達しておらず、感染症や病気のリスクが高いとされる。腸の一部が壊死(えし)し、生死に関わる「壊死性腸炎」では、母乳だと、人工乳に比べて罹患(りかん)するリスクを3分の1に低下できるという。また、未熟児網膜症や慢性肺疾患などの罹患率や重症度を下げる効果もある。
国内でドナーミルクを必要とする赤ちゃんは推定約5000人。2023年度にドナーミルクを使用した赤ちゃんは前年度比1・4倍の1118人に増え、利用病院数も21増の95施設に上った。
13日にリニューアルされたのは、「日本母乳バンク協会」の提供拠点「日本橋 母乳バンク」(東京都中央区)。ドナーミルクの安定供給を図るため、施設面積は2倍に拡大され、クラウドファンディングで募った寄付金を活用し、最新式の約2300万円の低温殺菌処理器が導入された。ドナーミルクの処理能力は約3倍に向上するという。
一方、母乳バンクは運営資金面などで課題を抱えている。運営資金は、企業や個人からの寄付金に加え、病院との年間契約費などでまかなっている。
だが、英国から輸入している、処理に必要な消耗品などが円安で高騰していることなどで、赤字経営に。資金不足で新たな常勤スタッフの雇用さえ困難になっているという。
13日に行われたリニューアル式典に出席した同協会の代表理事と「日本財団母乳バンク」理事長をそれぞれ務める水野克己氏(62)は「持続可能な運営をするための資金と体制の確保が喫緊の課題です。小さな命をみんなで支える母乳バンクを目指したい」と話した。
大変な時期に助けてくれ…感謝
リニューアル式典では、ドナーミルクを使用した2組の家族と水野氏のトークセッションもあった。
登壇した神奈川県在住のウェブデザイナー、岡野菜月さん(41歳、仮名)は22年12月、身長約30センチ、体重678グラムの長男光輝ちゃん(1歳、同)を緊急帝王切開で出産した。約3カ月の早産だった。
ドナーミルクについては、産前と産後に新生児科医らから説明を受け、「生存率と障害が残る確率を軽減できるなら」と使用を検討。産後3日目から母乳が出始めたものの量が増えず、生後1週間でドナーミルクの使用を決めた。
光輝ちゃんの体重は、今では8キロを超えた。4月から保育園に入園し、友達と遊んだり、つかまり立ちができるようになったりしたという。
岡野さんは「母乳を寄付してくれた方も授乳期の大変な時期に提供してくれたんだなと思うと本当にありがたいです」と感謝を述べた。
奈良県からオンラインで参加した佐藤桂子さん(仮名)は19年、妊娠22週で400グラムの女の子を出産し、5日間ドナーミルクを使用した。
「最初は自分の母乳を与えられないことに複雑な思いがあった」と当時の気持ちを吐露したが、「生死をさまよっていた娘にできることは何でもしたいと思った」と振り返った。
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