新名称の方向性が決まった後、集会で環境省の対応を批判する十勝自然保護協会の佐藤与志松共同代表=帯広市で2024年3月16日午後2時8分、鈴木斉撮影

 「十勝」を入れるか否かで意見が割れた北海道の日高山脈襟裳国定公園の国立公園化に伴う新名称は、環境省提案の十勝を加えた「日高山脈襟裳十勝国立公園」に決まる方向だが、地元では依然、不満の声がくすぶっている。十勝追加に反対する自然保護団体は同省の姿勢に抗議し、帯広市の経済界トップも「個人的には反対」と発言。地域待望の国立公園誕生を控え、どこかすっきりしない空気が漂う。

 十勝自然保護協会など道内の五つの自然保護団体で構成する北海道自然保護連合は4月30日、環境相に「極めて不誠実な対応に強く抗議する」との書面を送付した。同連合が環境省に送った14項目の質問に対し、同省の回答が「あまりに不十分」と感じたためだ。

A4用紙3枚にわたる北海道自然保護連合の14項目の質問書(左側)と、環境省の一括した回答書(右)=帯広市で2024年5月2日午後1時6分、鈴木斉撮影

 14項目は「日高と十勝にまたがる日高山脈は地理的固有名詞であり、既に十勝は内包されている。屋上屋を架すことになり、論理的におかしいが、ご見解をうかがう」など、十勝追加の根拠をただす内容だ。

 これに対し、環境省は回答書(4月22日付)で、新国立公園の保全などには関係市町村との連携が必須と指摘。「かけがえのない財産を次世代に引き継いでいく意識が一層高まることを期待し、市町村長の名前が列記された名称案を審議会に提示した」とした。項目別の回答はなく、同連合は環境相への抗議と同時に、「回答になっていない」と同省に再回答を求めている。

 新名称を巡っては、当初関係団体などから環境省に寄せられた案は①日高山脈襟裳十勝国立公園②日高山脈国立公園③日高山脈襟裳国立公園――の三つだった。

 ①は十勝6市町村と日高7町の首長が、関係自治体の総意として十勝を加えるよう要望した名称。②は道内複数の自然保護団体、③は日高町村議会議長会が求めたもので、ともに十勝追加に反対する立場からの要望だ。

 ところが、環境省は新名称を審議する2月22日の環境審議会自然環境部会で、①案だけを提示した。「反対側の意見も聞くべきだ」との指摘もあり、委員の意見が割れる中、異例の多数決で提示案が了承され、方向性が決まった。ただ、部会長が「次回、十勝を入れる意義の説明がもう少し必要」と付言し、同省に「宿題」を課す事態になった。

 この審議に自然保護団体は猛反発。十勝自然保護協会は「審議は公平性を欠き、自治体要望に沿う形に誘導した」と抗議し、反対要望を無視した理由などを問う質問書を環境省に送付。その回答が不十分だとして、同連合が14項目の質問書を改めて送ることになったという経緯だ。

十勝自然保護協会が4月に主催した日高山脈講演会。名称に反対する署名活動も行われた=帯広市で2024年4月13日午後1時39分、鈴木斉撮影

 同協会の佐藤与志松共同代表は「名称を決めるための本質論議がない」と批判。十勝追加に反対する署名活動を展開し、同協会が4月に主催した講演会「日高山脈の自然の魅力と課題」でも参加者に協力を求めた。

 新名称に十勝を加えるという動きは2020年7月、十勝地方の首長で組織する十勝圏活性化推進期成会(事務局・十勝町村会)が環境省への21年度要望に盛り込んだのが始まりとされる。期成会の内部資料には、要望前の関係団体との交流会で、ある経済人が十勝追加を発案したとする記載もある。

 一方、帯広商工会議所の川田章博会頭は今年3月26日の記者会見で、個人的見解と前置きした上で「十勝を入れるのは反対。違和感を持っている。国立公園の名前は短い方がいいし、会議所として(十勝追加に)動いたことはない」と明言。行政側との考え方の違いを印象づけた。

 国立公園化は5月中にも中央環境審議会の答申を受け、今夏には新名称も含め正式決定する予定。関係者は環境省が宿題の「十勝追加の意義」を審議会でどう説明するのか、注視している。【鈴木斉】

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