野球のユニホームを着ていなくても「似ている」と口々に言われ、伊藤弘竣さん(27)の気持ちが動いた。「一回、全部そろえてみようかな」。米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手がエンゼルスに在籍していた2022年の秋、伊藤さんはユニホーム一式をネットで購入した。以来、「マチョ谷翔平」を名乗り、沖縄を拠点に物まねタレントを続けている。銀行員だった時は想像もしていなかった。まさか、サインをねだられる日が来るなんて。(南部報道部・平島夏実)
コロナ禍では筋トレに励んだというマチョ谷翔平さん(提供)野球少年たちからサイン攻め
「サインお願いします!」
糸満市内で4月27日にあった野球イベント。野球帽を差し出す少年たちに囲まれ、伊藤さんは遠慮がちに聞いた。「表彰式の後でもいい? 必ず書くから」。ならば自分の顔を覚えておいてくれとせがむ子もいて、「うん。分かった。ちゃんと覚えとく」と視線を合わせてうなずいた。
マチョ谷翔平さん(左)のサインをねだる子どもたち司会に呼ばれると小走りでマウンドへ。中学では野球部だったそうで、背番号「17」のユニホームが様になっている。193センチの大谷選手に比べて、伊藤さんは175センチで一回り小さくした感じだ。
#筋トレに救われた人
母は那覇市出身。伊藤さんも那覇で生まれ、父のふるさとの兵庫県で育った。2019年、銀行に就職。直後のコロナ禍で、電話やメールばかりの営業はうまくいかず、同僚とランチもできなかった。
定時帰宅が続く中、目覚めたのがジム通いだった。やればやるだけ体が変わっていく。「#筋トレに救われた人」と書いてツイッター(現X)に写真を投稿すると、米大リーグのダルビッシュ有選手がリツイートしてくれた。
身長175センチのマチョ谷翔平さん。大谷翔平選手より18センチ低く、動き回らない現場であれば厚底の靴を履く場合もあるという(提供)そこから勢いに乗った。約1年勤めた銀行を退職。トレーナーの民間資格を独学で取得し、フリーランスのトレーナーになった。2021年にはフィットネス・ボディービル団体「FWJ」のメンズフィジークモデル大阪大会で準優勝を飾った。
沖縄へ引っ越した2022年11月。鍛え抜いた体に大谷選手のユニホームがはまった。その姿で南城市の尚巴志ハーフマラソンの応援に立つと評判になった。
「なりすまし」と誤解されたことも
だが、「マチョ谷としてのデビュー戦はほろ苦かったです」と打ち明ける。あくまで物まねなのに「本人のなりすまし」と見なされ、フォロワーが1万人に達したインスタグラムのアカウントが消されてしまったからだ。
バットを構えるマチョ谷翔平さん(提供)「それからは本人と勘違いされないように、気を付けて発信してます」と笑う。さじ加減が難しい物まねの世界だが「大スターに誰よりも憧れている」という自負は揺らがない。大谷選手が日本選手最多ホームラン記録を塗り替えた今シーズン、伊藤さんは「FWJ地区大会優勝」に向けて筋トレを続けている。大谷選手のような二刀流で、物まねとボディービルダーの両方を極めようとしている。
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