「ご使用料金につきましてお話がございます」「こちら迄ご連絡下さい」
記者(72)のスマートフォンに届いたショートメールサービス(SMS)のメッセージに目が留まった。「050」から始まる電話番号も記され、電話を促している。突然届いた、身に覚えのない連絡。不安に襲われた。
1件のメッセージを発端に巻き込まれた、やり取りの一部始終を紹介したい。
身に覚えない「動画サイト契約」
メッセージが届いたのは今年7月中旬の正午前。ほぼ4時間後、「NTTよりお知らせ」との文面に気付いた。
「何事か?」。そう思って電話をかけると、応対した男性が「確認します」と前置きした上で、記者の名前と生年月日を聞いてきた。「間もなく担当者から電話を差し上げます」と記者に告げ、いったん電話が切れた。
数分後に「NTTファイナンスサポートセンターの債権回収担当」と名乗る別の男性から電話があった。「あなたは(令和)5年7月10日、月額の動画サイトを契約している。この1年間、料金は未納になっております」。お金を振り込むよう求められた。
「もしかして、これが詐欺?」と直感した。「契約した覚えはない。何を言っているんだ」と電話口から男性に憤慨した。
男性は落ち着き払った声で「契約をされたことがないのであれば、手続きをする必要がある」と強調するが、無視して電話を切った。
男性から、またすぐに電話がかかってきた。「電話が切れましたね」と、改めて「手続き」をするよう迫ってきた。
誤って動画サイトの契約をしていたのだろうか……。不安に襲われ、自問しながら「未納額はいくらなのか」と尋ねると、解約違約金、延滞損害金合わせて45万8000円だという。びっくりした。
電話を切らずに交番へ
「これから警察に行きます」。引き下がってくれるのではと思い、語気を強めて警察の名前を出し、再び電話を切ろうとすると「このまま切らないで、向かってください。警察の方には私の方からお話しします」。不安感は増すばかりだった。
記者は記事や写真の送稿、さまざまな事柄の検索、諸連絡で日常的にパソコンやスマホを操作する。しかし必ずしも扱いに精通しているわけではなく、不慣れなところも多い。
操作中に誤って動画サイトにアクセスし、もし契約されていたとすれば……。さまざまな思いを巡らせながら、電話を切らずにスマホを助手席に置き、車で4、5分ほど走って交番へ駆け込んだ。スマホを確認すると、既に電話が切れていた。
交番の窓口で一部始終を報告すると、「払わないでよかった。この手口は典型的な詐欺だ。他にも事例がある」。応対してくれたお巡りさんの言葉にほっとした。
さらに「NTTの連絡は(基本的に)郵便。ショートメールでは行っていない」ともアドバイスしてくれた。
「警察の方には私の方からお話しします」と話を向けたのは、金をどこまでも奪いたいがための脅しなのだという。「あなたがまさか本当に警察に駆け込むとは思っていなかった。だから電話を切ったんです」とお巡りさんは言う。
特殊詐欺の手口が巧妙化し、被害が後を絶たない。人間の心理を巧みに突いた詐欺の手口を垣間見た。
その後、電話でやり取りしたような男性らからの接触はない。NTT東日本秋田支店の担当者は「同じような事例がたくさん発生している。ショートメールでの料金請求は行っていません」と注意喚起している。
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