静岡市の中山間地域「オクシズ」で風土に根差したウイスキー造りに取り組む「ガイアフロー静岡蒸留所」(葵区)で、富士山のふもとから切り出したミズナラで初めて作った酒樽に原酒を入れる樽詰め作業が行われた。貴重な機会に立ち会おうと県内外から約30人のウイスキーファンが駆けつけ、原料だけでなく樽も地元産の「100%静岡ウイスキー」の熟成に思いをはせた。
静岡蒸留所でのウイスキー造りは2016年に始まり、20年に初めての商品が完成した。現在の年間生産量は約13万リットル。原料の大麦は地元農家の協力などで県内産が約2割に達し、水は安倍川支流の伏流水を敷地内の井戸からくむ。県の沼津工業技術支援センターが開発した酵母を使い、国内唯一の方式という直火蒸留の薪(まき)も地元の杉の間伐材だ。
酒樽は通常、バーボンウイスキーに使われた北米産オーク材のものを輸入して再利用している。ミズナラ樽で熟成させたウイスキーは、香木の伽羅(きゃら)を思わせる香りと味わいが独特で、世界でもオリエンタルな魅力として認められているという。その半面、加工が難しく、水漏れもしやすい。
創業以来探していた十分な太さのあるミズナラを20年にようやく裾野市の森で見つけて約10本を入手。製材やアク抜きのため、1年以上かけて天日で乾燥し、今年4月から樽の製作に入った。しかし、ミズナラ樽の製作は想定以上に難しく、組み上げや調整を繰り返した結果、三つ作るのが精いっぱいだったという。
完成したのは、250~450リットルサイズの3樽。樽詰めは今月11日から3日間行われ、限定公開で立ち会ったウイスキーファンが原酒の香りをかいだり、タンクからホースで樽に送り込まれる様子を興味深げに見守ったりしていた。
ミズナラ樽での熟成は時間がかかるとされ、今回樽詰めされたウイスキーが飲みごろを迎えるまでには30年かかる可能性もある。ガイアフローの中村大航社長は「すぐに味わうことはできないが、すべてにおいて地元産の『100%静岡ウイスキー』は、この地でこだわりをもって丁寧にウイスキーを作り続けるうえで大切な象徴になる」と話していた。【丹野恒一】
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