昨今、アクセル・ブレーキの踏み間違い事故が相次いでいる。事故データによると高齢者だけではないこともわかっている。なぜ事故が起きてしまうのか。専門家に聞いた。
【映像】アクセルを踏み続ける“衝撃の瞬間”
東京・六本木の「けやき坂」で、タクシーがブランド店に突っ込み、店のショーウインドーのガラスが粉々になる事故が起きた。目撃者によれば、タクシーは六本木ヒルズのロータリーから出てきて、左右に曲がることなく店に突っ込んだものとみられる。
当日のニュースでは「ブレーキの踏み間違えが原因」と伝えられたが、同業者であるタクシー運転手に話を聞くと、「サンダルとかを履いていれば別だが、通常はちょっと考えにくい」「休憩を取らず頑張るドライバーもいる。疲れかもしれない」「ブレーキの端だけ踏んで、滑らせたのかもしれない」といった推測が出た。
事故を起こしたタクシー会社に問い合わせると、「当該の運転手は50代。六本木ヒルズから出て信号待ちをして、信号が青に変わり左折する際に、ブレーキから足を滑らせ、アクセルを踏み込んでしまったような状況だ」との回答を得た。
交通事故鑑定人の佐々木尋貴氏は、「踏み間違いが起きたとすれば、最初の歩行者道路(横断歩道)を通過しようとした時に、自分は減速しなくちゃいけないと思って、アクセルからブレーキに足を乗せ替える頃だ」と予想する。
佐々木氏は、足を乗せ替える際に「キャスター効果」と呼ばれる現象が起きた可能性を指摘する。「ハンドルは、速度が乗ると、自然と直進に戻る性質がある。直進に戻った状態で、店の方に突っ込んでいくことは起こりうる」。そして、左折しようと発進したが、予想外の歩行者などが目に入り、ブレーキを踏もうとしたが、アクセルを踏み込んだと分析する。
その時のスピードは「フロントの壊れ具合からみても、時速30〜40キロ近い速度が出ている」といい、「歩行者などがいれば、死亡事故につながる」と語った。また事故調査の傾向として、「ブレーキペダルの減り具合を見ると、多くは右下角の方に、足が斜めになるように掛かっている」と説明する。
では、なぜアクセルを離さないのか。アクセルとブレーキの踏み間違い事故は、2023年にも北海道で起きた。当時の映像を見ると、踏み間違えた後、なぜかアクセル全開で加速しているように見える。
脳の認知科学の専門家である、名古屋大学の川井伸幸教授は、「いろいろなことを頭の中で切り替える“実行機能テスト”がある。その時の前頭葉の血流を調べると、左側のこめかみあたりが活性化していた。ここが、やっていることを切り替える時に使う脳の領域だ」と説明する。
つまり、ブレーキとアクセルのペダルの切り替えを指示しているのが、前頭葉の左こめかみ付近の部分となる。しかし、活性化しすぎることが、事故につながると川井氏は指摘する。
「前頭葉は基本的に、やっていることを止める働きをするところ。我々は“認知資源”と言うが、いっぱいいっぱいになって、切り替えて止める作業ができなくなり、間違えたまま踏み続けてしまう」(名古屋大学・川井伸幸教授)
実際は間違えてアクセルを踏んでいるが、脳が「ブレーキを踏んだ」との認識から、間違いを認めて「アクセルを離す」という情報にアップデートできず、脳内では「ブレーキを踏んでいる」認識のままになる。これが俗に言うパニック現象だ。特に高齢者は、血流の循環が悪くなり、脳内の酸素不足が引き起こされやすくなる。
しかし、20代による踏み間違い事故もある。Uターンして、アクセルを踏んだところ、必要以上の加速にパニックを起こし、アクセルを離し忘れて激突してしまう。この事故映像を解析した、交通事故防止コンサルタントの上西一美氏は、「ドライブレコーダーの事故映像を3万件近く見て、踏み間違いの事故は他にも何件か見てきた。“高齢者特有の事故”と決めつける方が、逆にリスクが高い」と語る。
交通事故分析センターのまとめ(2023年)によると、全国で踏み間違い事故は、年間約3000件発生しているが、踏み間違いは60代以上(60代490件、70代766件、80代474件)だけでなく、20代の若年層(417件)も多いとのデータが出ている。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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