貧困や虐待、病気などによって親と離れて暮らす子どもを一時的に他の家庭で養育する制度「里親」。こども家庭庁は10月を里親月間とし、啓発活動を行っている。
【映像】40年間、里親を続ける坂本洋子さん(67)
その背景は里親不足。現在、親と離れて暮らす子どもの数は、約4万2000人。その多くは児童養護施設で暮らしている。里親に迎え入れられている子どもは2割ほどしかいなく、先進国で最低水準だ。
里親の成り手不足が叫ばれる中、制度の普及に必要なことについて、『ABEMA Prime』では養育歴40年の里親当事者と共に考えた。
■40年間、里親を続けている坂本洋子氏
40年間、里親を続けている坂本洋子氏は、これまでに19人の里子を育てた。5〜6人の里子を預かることができるファミリーホームで、現在は5人を養育し、障害などがある子どもを積極的に迎え入れている。
里親を始めたきっかけについて「実子ができないことがあり、里親になろうと思った。それだけではなく、家庭を提供して、親御さんがいないお子さんを引き取って、お互い幸せになれるならという気持ちでスタートして、40年が経った」と振り返る。
障害がある子どもを受け入れているのは、「元々、障害を持つ子が大好きだからだ。私たちは人の目を気にしながら生きているが、障害を持つ子どもは素直に自分を出せる。なんて素敵なんだろうと。ものすごい魅力があって、子育てしたらしただけいろんなことを教えてくれて、共有できる。その楽しみは本当にワクワクする」。
里親を始めて、ハードルの高さを感じたことはなく、「例えば手術の時は、児童相談所の所長さんがサインをする。病院に連れていくのは普通にできることで、監護権を与えられている」「子ども優先だから、子どもに不利になるようなことは起きない」と説明した。
子どもたちからはなんて呼ばれているのか。坂本氏は「“かあか”と呼ばれている。障害を持っている子でうまくお口が回らなかったりするので、そうすると、かあかと言う子どもが多い」と答え、「年齢的には“ばあば”だが、とても幸せだ」と語った。
さらに「最初は親になってみたかったという自分本位の見方だったが、今になってみると、里親制度は里子のための制度だから、この子たちに特定の大人をかあかとかパパと呼ばせてあげられる環境を与えられたことで、本当に里親になってよかった」と述べた。
■最初の里子 純平くん
坂本氏に里親としてのあゆみに大きな影響を与えたのが、最初に預かった純平くんの存在。3歳のときに乳児院から預かり、家庭での暮らしが初めてで、ADHDで多動などの傾向があった。小学校で周りに里子であることをカミングアウトしたことで、周囲から偏見・差別の目を向けられ不登校となった。
坂本氏は「彼が里子になった頃は、社会的養護や里親制度はあまり知られていない時代だった。やんちゃな子どもで、“施設育ちだからああなんだよね”みたいな偏見はあった」と振り返る。
その後、不登校となったことを理由に行政は純平くんを施設に戻すことにした。純平くんは坂本氏の家に居たかった。坂本氏も居て欲しかった。行政には「何度もお願いをしたが、叶えてもらえなかった」といい、「あの頃は子どもの意見表明や、子どものことを聞くことはあまりなかった。今と時代が違う」と説明した。
施設に戻った後も純平くんと坂本氏の交流は続き、「長い休みには私の家に帰ってきたし、無断で逃げてきたこともある。何度も何度も戻ってきた」。
しかし、純平くんは17歳の時、バイク事故で亡くなってしまった。坂本氏は「私たち家族が旅行に行ってる間に彼は亡くなっていた。海外に行っていたので、連絡がつかなくて、その頃は携帯もなかったので、家に戻ったら長いFAXが入り続けていた。それを見て彼が亡くなったことを知った」。
当時の行政側の対応について、「子どもがどうしたいか。過去も今もそうだが、優先的に絶対聞くべきだと思う。どこで誰と一緒に住みたいか、子どもの意見として絶対に大事なことだと思う」と述べた。
■登録里親数1万6817世帯のうち約7割が未委託
そもそも里親になるためには、児童相談所に申請し、勉強や実習などの数日間の研修、家庭訪問で養育環境などの調査を経て、登録する。厚生労働省によると、登録里親数1万6817世帯のうち、児童を委託されている里親は4940世帯(2022年度)で、約7割の里親が未委託だ。主な理由は「里親の希望(年齢や性別など)に合う児童がいない」、「家庭事情で一時的に受託を希望していない」、「里親が短期委託、一時保護委託を希望」などが挙げられる。
また、里親と子どもの関係悪化が原因で委託が解除されてしまう里親不調の件数は、2015年度の22人から右肩上がりで伸び、2021年度には44人となっている。
社会福祉学者・日本女子大学教授の林浩康氏は「子どもが背負っている背景の重さもある」といい、「被虐待的な体験や、親と別れて暮らすことに大きな喪失感を感じる。それによって、初めての家庭に行ったからこその行動化が促される面がある。そういう行動の意味をきちんと伝えて、どう対応したらいいか、支援者がきちんと伝えればいい。でも支援者が成育歴を把握しているわけではないので、里親さんも支援者も子どもの行動に戸惑ってしまうことはあるかと思う」と説明した。
里親と里子のミスマッチについて、坂本氏は「新しい若い里親さんは、自分のできる範囲内からスタートしたい気持ちがあるのも当然な気はする。ただいろんなところで経験を積んで、自分のキャパを広げて、どんな方でもOKと言えるぐらい、ちょっと太っ腹な里親さんがどんどん増えていってもらいたい」。
坂本氏も最初の頃は、(里子の年齢や性別などの)希望を出していたが、「やっていくうちに、今はそうじゃない子どもをお願いしている。だから経験は大事だと思う。里親が高年齢化していると見るのではなく、経験値が上がっているという側面も見ていただきたい。身体が続く限りやりたい」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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