福岡高裁=福岡市中央区で、吉川雄策撮影

 陸上自衛隊西部方面隊(熊本市)の男性陸士長(当時22歳)が2015年に自殺したのは、教官からのパワーハラスメントにより適応障害を発症したことが原因として、両親が国などに計約8100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は2日、教官の安全配慮義務違反のみを認めて国に220万円の賠償を命じた1審・熊本地裁判決(22年1月)を変更し、賠償額を6722万円に増額した。新谷晋司裁判長は「違法な指導と自死との間には因果関係があると認められる」と判断した。

 男性は長崎県内の教育隊に派遣中だった15年10月7日に自殺した。

 1審判決は、自殺する直前の15年10月5~6日、教官2人が男性を指導中に「お前のようなやつは殺してやりたい」などと発言したことは不適切で安全配慮義務に違反しているとした一方、2日間の指導で適応障害を発症し自殺することまでは予想できなかったと判断。自殺との因果関係を認めなかった。

 これに対し高裁は、「適応障害によっても自死が起こる危険性は高い。(男性の)心理的負荷は強度だった」などとする医師の意見を踏まえて違法な指導と自殺の因果関係を認め、賠償額を大幅に引き上げた。国側は「男性個別の心理的要因も自殺に寄与した」などと訴えたが、高裁は「指導を受けるまで男性の体調や精神の状態に特段の異常はなかった」などと退けた。

 男性側の代理人弁護士は「違法な指導が2日間という極めて短い期間でも、国の責任を認めた先例的な価値のある判決」と評価。男性の母親は「若い命が散ることのない世界を示してもらいたい」と求めた。

 陸自西部方面総監部広報室は「判決内容を慎重に検討し、適切に対応したい」とのコメントを出した。【志村一也】

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