北海道・知床沖で観光船が沈没し、乗員乗客26人が死亡、行方不明となった事故で、海上保安庁は18日、観光船『KAZU1』を運航していた『知床遊覧船』の社長・桂田精一容疑者(61)を逮捕しました。

第1管区海上保安本部・藤田望警備救難部長
「慎重かつ厳正に捜査を行ってきたが、本日午前9時37分、『KAZU1』の運航会社取締役である被疑者・桂田精一を業務上過失往来危険および業務上過失致死の疑いで通常逮捕した」

第1管区海上保安本部は、桂田容疑者が運航管理者などとして、安全を確保すべき義務を怠った結果、事故が起きたと判断。逮捕に至った理由を「証拠隠滅の可能性が排除できないため」としました。

なぜ、これほど時間がかかったのか。

第1管区海上保安本部・蠣崎孝司刑事課長
「本件は、乗員乗客26名全員が死亡、または行方不明となり、さまざまな鑑定や気象データの分析など、証拠を丹念に積み重ねる必要がある難しい捜査を2年以上にわたり続けていた」

関係者によりますと、海上保安庁は、専門家立ち合いのもと、事故を再現した実験をするなどの捜査を積み重ねてきたそうです。

事故直後から、桂田容疑者が船の運航について知識がないことは明らかでした。

桂田精一容疑者(2022年4月)
「(Q.安全管理規程を、もう一度)安全管理規程…どこに書いてあるかな。ちょっと曖昧な表現になって、数字が出てないんですよね」

『社外秘』と記された黒皮の手帳。知床遊覧船の経営計画書です。
表紙をめくると、まずは正しい接客の姿勢から。社長直筆の『知床ウトロから〜世界に発信しよう!』というメッセージもあります。経営方針は『お客様第一主義』、『安全第一』。トラブルが起きたときの対処法については「あやまり倒す。解決するまで何回も足を運ぶ」とあります。

ところが、安全第一は守られませんでした。悪天候が予想されていたにもかかわらず、2022年4月23日、『KAZU1』は海に出ました。

桂田容疑者は、事故直後、知床遊覧船とは別に経営していた宿泊施設の代表を辞任しています。しかし、知人によりますと、新しい代表に親族を据えて、変わらぬ様子で、宿泊施設に出入りしていたそうです。

桂田容疑者の知人
「事故直後は、逃げ去るような態度だったが、最近はそういうこともなくなった。地域の大きな行事にも参加していたし、きのうも普通に街中で車を走らせていた」

乗客の家族にとっては、あまりに長い年月でした。

小柳宝大さん(当時34)は、いまも行方がわからない6人のうちの1人です。「写真いっぱい撮ってくるね」と父親に伝えて『KAZU1』に乗り込みました。

18日朝、小柳さんの父親の自宅の電話が鳴ったのは、桂田容疑者の逮捕から、わずか8分後でした。

小柳さんの父親
「『こちら検察庁ですけど』と、『桂田社長を逮捕したので連絡しました』と。前触れもなく、突然、電話が入ったから、びっくりして驚きました。やっと逮捕かと思った半面、ホッとしました。やっとこれで物事が進むのだと。(Q.逮捕をどう受け止めている)再スタートだと思っています。何か罰を与えられるのであれば、きちんと償ってもらいたい。これがひいては、今後の事故の再発防止につながるのではないか」

海上保安本部は「捜査に支障がある」として、桂田容疑者の認否を明らかにしていません。桂田容疑者は19日にも送検される予定です。

※「KAZU1(ワン)」は正しくはローマ数字

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