沈没した「KAZU Ⅰ」が出航したウトロ漁港。大小の観光船が停泊する=北海道斜里町で2024年9月18日午後4時16分、本多竹志撮影

 北海道・知床半島沖で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故から約2年5カ月。運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(61)が18日、業務上過失致死と業務上過失往来危険の容疑で逮捕されたことを受け、遺族からは「大きな一歩」などと評価する声が並んだ。

 「ちゃんとしとってもらえれば、助かったかも分からんしね……。自然を相手に人命を預かる仕事なら、安全第一でしてもらいたかった」

 死亡が確認された林善也(よしや)さん(当時78歳)=佐賀県有田町=の妻(82)は逮捕を聞き、胸の内を明かした。

 事故後、桂田容疑者がおわびの言葉を直接伝えてきたり、訪れてきたりすることはなかったという。今後の捜査や裁判などで責任の所在を明らかにしてほしいと思っている。

 今年7月、乗客24人のうち14人の遺族ら29人が、運航会社と桂田容疑者に計約15億円の損害賠償を求める集団訴訟を札幌地裁に起こした。知床観光船事件被害者弁護団は18日、「民事上の責任だけでなく刑事罰を科してほしいということが、多くの被害者とご家族の願いと受け止めている。逮捕は刑事責任を明らかにするうえでの大きな一歩になると考えている」とコメントを出した。

 橳島(ぬでしま)優さん(当時34歳)=千葉県松戸市=を亡くした家族も、訴訟に加わっている。

 18日朝に逮捕の知らせを聞き、両親は互いに抱き合い、安堵(あんど)の気持ちを分かち合った。優さんは、事故の日が誕生日だった父のためにプレゼントを用意してくれていた優しい息子だった。母は「やっとここまできた。桂田社長は罪を認め、正面から向き合ってほしい」とコメントした。

 北海道羅臼町の漁師、桜井憲二さん(61)は、事故直後から行方不明者の捜索ボランティアを続けてきた。「2年もかかったが、それだけ慎重に捜査してくれたんだと評価したい。桂田社長がこの2年間、遺族としっかり向き合っていれば、遺族の心はもっと報われていたのにという思いもある」と語った。【金将来、山口響】

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