山形県を襲った7月の記録的豪雨は地元の観光資源にも打撃を与え、一部の老舗温泉旅館では秋の行楽シーズンを迎えても復旧作業が続いている。経営者らは「安心できる観光地にしていく」と早期の復興を目指している。
県北部の鮭川村は人気アニメ映画のキャラクターに似ているとして人気を集める杉の大木「トトロの木」で知られる。村内では局地的に土砂崩れが発生し、県のまとめ(9月11日現在)によると、がけ崩れや地すべりなどの被害が被災13市町村で最も多い。14世帯33人が今も避難生活を続け、県が9月末の完成を目指して仮設住宅を建設中だ。
復旧に向け陣頭指揮に当たっている元木洋介村長(76)は、自身が経営する温泉旅館が土砂崩れの直撃を受けて被災。公務の合間に家族と片付けに追われる日々が続いている。
「台所に水が入ってきた。もう駄目だ」。村役場に泊まり込んで災害対応に当たっていた7月25日未明、元木さんは家族から悲痛な声で電話を受けた。
家族を自宅2階に避難させるなど、安全を確保しながら公務を優先。26日夕方になって自宅に戻ると、旅館の裏山から大量の土砂が崩れ落ちて建物の中まで入り込み、床上まで泥水で覆われていた。
家族の友人に助けを借りながら、重機やスコップで建物の周囲の土砂をかき出し、すぐ近くの仮住まい先に引っ越すまで、半月以上もかかった。
周囲に3軒ある旅館のうち、被害があったのは元木さんだけ。お盆や夏祭りに合わせて入っていた数百人分の予約を断らざるを得なかった。再開には時間がかかりそうで、「移転するにしても多大な費用がかかり、悩ましい」と話す。
全国各地で災害が頻発する中、自らも被災者となったことで「安全な観光地にしていかなければならない」と痛切に感じている。旅館の近くに立つトトロの木には幸い被害はなく、復興への思いを新たにする。
最上町の瀬見温泉でも
県北東部、最上町にある瀬見温泉は、最上小国川沿いに旅館が点在するひなびた温泉街だ。ここで8日、町消防団員ら約50人がポンプ車4台を使い、土砂で覆われた老舗旅館の駐車場を川の水で洗い流していた。
消防団員の一人として放水作業に当たった高橋裕さん(40)が経営する。当時は川の増水によって建物が浸水するだけでなく、近くのスキー場跡地から崩れた土砂にも襲われた。例年ならアユ釣り客でにぎわうかき入れ時だが、復旧には時間がかかり、長期休業を強いられている。
町やボランティアらの協力でようやく施設内の掃除と重機で土砂を撤去し終え、今後は故障した浄化槽などの修理を進めて11月中の再開を目指す高橋さん。「頑張ってくれている従業員の存在が心の支え。泥をきれいに洗い流して、少しずつ元の姿になっていくのがうれしい」と話す。【長南里香】
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