事件の発生を伝える『産業経済新聞』

「オゝミステイク(ああ、しくじった)」

昭和25年、流行語となったこの言葉。「日大ギャング事件」とも呼ばれる事件で、逮捕された男が放ったとされる言葉だ。戦前派と全く違う価値観を持つ戦後派の若者らの無軌道ぶりを揶揄(やゆ)する「アプレゲール」犯罪として話題をさらった。

25年9月22日、白昼の都心・千代田区大手町で、現金を輸送する日本大会計課員の車が奪い取られる強盗事件が発生。大学職員百数名分の給与、現金190万円を銀行で引き出して大学に帰るところだった。

犯人は日大で運転手を務める男=当時(19)=だった。月刊思想誌『思想の科学 第7次』によれば、銀行の前で「乗せていってくれ」と車に同乗してきたという。車中でナイフを取り出し、運転手や会計課員を追い出して現金ごと車を奪い取った。

男は車を乗り捨てた後、欲しかった服やかばんを購入。親しかった女性=当時(18)=と合流し、当日は旅館に、翌日は品川区内で家を間借りし宿泊した。しかし、この家の家主が2人の金遣いの荒さや新聞で報じられた人物に似ていることに気付き、大森署に通報。2人は24日に逮捕された。

翌25日付の『時事新報』は「ついに逮捕さる」と見出しを打ち、既に多額が消費されていたことを報じた。『思想の科学』は、男が「あこがれのアメリカ人のような服装や生活がしてみたかった」とし、「その軽薄さを代表するような若者だった」と記述した。(橋本愛)

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