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 先日、楽天グループの三木谷社長の投稿が物議に。「国家が『一元的に』単純な時間制限を押し付けるのは仕事を通じて挑戦したり、より働いて自分の力をあげたり、収入を増やしたいという人の自由を奪う愚策だと思う」(三木谷浩史社長 Xから一部抜粋)

【映像】倒れたら“過労死”と認められる残業時間

 「愚策」と痛烈に批判したのは、2019年以降政府が主導する「働き方改革」。長時間労働を防ぐため、時間外労働の上限を原則月45時間、年360時間に規制するなど、労働環境の質や生産性の向上などを目指し進められてきた。

 しかし、去年発表された、時間あたりの労働生産性(ドル)を見てみると、日本はOECDに加盟する38カ国中30位。4年連続で順位を落とし、1970年以降最低となっている。残業規制を始めとする働き方改革は愚策なのか。日本の働き方はどうあるべきなのか。『ABEMA Prime』で考えた。

■働き方改革の是非

 「アクセルパートナーズ」代表の二宮圭吾氏は“残業規制は緩和すべき!”との考えで、稼ぎたい・スキル上げたい若手社員にとってプラス、会社側にとっても成果を出せる社員にたくさん働いてもらうので双方にメリットしかないと主張。また、制度を真面目に守ってる会社が損をしてしまっていると、現状の問題点を指摘。

 二宮氏は「例えば、22時以降に深夜手当をつけないといけない法律があると、子どもを寝かしつけた後、テレワークで働くのも規制されてしまう。残業ができなくて時間やエネルギーを持て余し、本業とは関係ない資格を勉強したり、隙間バイトなどお金を稼ごうとしている人が多い。できる限りエネルギーがある人は、本業で稼いで、地位を上げていくのが正しい社会だ。ただ同時に、心理的安全性や、8時間ピッタリで帰りたい人は尊重されるべき」との考えを述べる。

 さらに、「法律で絞っていくことも大切だが、それよりも監督することが大切だと思う」といい、「労働基準監督署が今しっかり機能しているかは難しい。労働基準法を限定していっても、大企業や真面目な会社は守っていくが、中小企業などで守らない会社があると、これからも社会は変わっていかないと感じる」と続けた。

 一方で、NPO法人「POSSE」理事の坂倉昇平氏は、“残業規制はより厳しくすべき!”との考えで、長時間労働によって、人手不足・少子化を加速させ、中長期的な生産性も下げる。制度よりも意識改革をするべきと提言。

 坂倉氏は「日本で長時間働いている人はたくさんいると思う。2023年でも過労死、脳梗塞、心筋梗塞、精神疾患で亡くなったり、後遺症が残ってしまった方で労災を申請した人は4600人で過去最多だ。働き方改革で、労働時間が短くなった会社もある一方で、長時間労働によって、後遺症を負ってしまったり、命を落としてしまう事件が非常に多い。そういった実態がいまだに過小評価されている。今ですら、法律が全然守られていない。上限規制を緩和したらどうなるのかを懸念している」と話す。

 本人は大丈夫だと思って働いてしまっているのか。「最初はこの仕事を楽しいと思ってやっているはずだが、何年かしたらパタっと倒れたり、気づいたら線路に飛び込みたいと思い始めたりして、初めてうちに相談に来て、今すぐ仕事は休んでくれと言って、労災を申請して認められるなど、そういうケースも結構ある。自分の無理な範囲が分かったり、会社がこれ以上仕事を任せてはダメだとやってくれればいいが、分からない。だから客観的なルールは必要だと思う」と答えた。

 スタートアップの会社で働いた経験のあるハヤカワ五味氏は「普通に体を壊す人は多い」といい、「もちろんそれで成長してうまくいっている人もいるし、自分も割とハードに働いてきて今の自分がいると思いつつ、これは成功者の話。何人も死んでいった人たちがいた中での生存者バイアスだ。その前提で考えなくてはいけない。めちゃくちゃ働きたいなら、フリーランスや管理職以上の役員であれば残業の規制はないので、そうなったらいいのではないか」と述べた。

■時間外労働の上限規制「これ以上残業して病気で倒れたら過労死だと認められる基準」

 時間外労働の上限規制は2019年4月に施行され、月45時間・年360時間、特別事情ありで複数月平均80時間までと決まっている。

 板倉氏は「これ以上残業したら、脳や心臓の病気で倒れた場合に過労死だと認められるための基準だ。人生において家族、友達、趣味などに時間を使っていくことが、実は重要で、その中でお金を稼ぐために労働がある。EU全体では週48時間しか労働しちゃいけない。フランスだったら法律で35時間で1日7時間しか働けない。それは生きることの意味、そもそもなぜ働くのかという考えがある。でも日本だと死ぬかどうかで線が引かれている。それだけのところをさらに緩和するのは何を言っているのかと正直思う」と苦言を呈した。

■日本の労働生産性は過去最低「ちゃんと立ち止まって考えなかった結果」

 日本の1時間あたりの労働生産性は38カ国中30位。板倉氏は「アイルランドやポルトガル、アメリカは物価が高く、賃金も高い。それに対しての割合で出てくるので、そういう国が上に来ている。少なくとも問題としては、日本の労働者の賃金がすごく低くて、物価は最近上がってきているものの、世界的に見ても低く抑えられてきた影響が出ている」と話す。

 脳科学者の茂木健一郎氏は「生きる上で必要なことや幸せの条件について、ちゃんと立ち止まって考えなかった結果だと思っている。三木谷さんがXで投稿した件について、諸外国だったらものすごい批判が起こると思うが、そういうことさえ起こらない。日本人は物を考えなくなってることが問題な気がする」との見方を示した。

 残業規制から始まる改革もあるかもしれない。ハヤカワ五味氏は「生成AIでの業務改善に取り組んでいるが、社内で浸透させるのが難しい。目の前の数時間を工夫したら、その先の100時間削れるものであっても、今頑張ればなんとかなるから業務改善をやらない人も多い。根本的になんとかしよう、時間を短くしよう、という気持ちがないし、現状だとだらだらやったほうが、給料がもらえるからいいとなってしまっている。働く時間のケツを決めて、辻褄を合わせるのは、どこかのタイミングで必要だと思っている」と述べた。

(『ABEMA Prime』より)

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