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 福岡市の片側1車線の国道で、7歳と5歳の姉妹が亡くなる事故が起きた。センターラインを超えた軽乗用車と路線バスが衝突し、軽乗用車に乗っていた姉妹が亡くなったが、注目されたのは2人がシートベルトを着用していたこと。

【映像】シートベルト未着用で衝突 車外に投げ出される運転手(実際の様子)

 シートベルトは体をシートに固定し衝撃を吸収、運転手や同乗者がハンドルやフロントガラスに衝突することや、車外に放り出されることを防ぐ。しかし姉妹は出血性ショックが死因で、捜査関係者によると、腹部の出血が特に激しく「シートベルトによる腹部の圧迫」が要因とみられている。

 姉妹が着けていたのは、身長140センチ以下の人に推奨されるジュニアシートではなく、通常のシートベルトだった。JAFの実験映像によると、ジュニアシートを着用した子どもは、鎖骨と骨盤が固定されて衝撃が吸収されるが、着用していない子どもは首と腹部に強い負荷がかかってしまう。

 シートベルトのリスクと正しい着用法について、『ABEMA Prime』で専門家に聞いた。

■子どもにシートベルトはリスクあり?

 子どもが自動車に乗る時、6歳未満はチャイルドシートが義務付けられている。違反した運転手に対しては、交通違反点数1点が課せられるが、罰則・罰金・反則金はない(タクシーなどは免除)。JAFでは「6歳以上でも身長140cm未満はジュニアシート推奨」としており、9月中旬をめどに「150cm未満」への引き上げが検討されている。なお学校保健統計調査(2022年度)によると、身長140cmを超える年齢は、男の子が11歳(146.1cm)で、女の子が10歳(141.4cm)だ。

 「チャイルドシート」は幼児(1〜4歳ころ)が対象で、本体に付いた専用ベルトで子どもを固定する。一方で「ジュニアシート」は、学童(3〜12歳ころ)に対して、車に付属するシートベルトで子どもを固定するものだ。

 YouTubeなどで安全運転の啓蒙活動を行う日本事故防止推進機構の上西一美理事長は、「シートベルトを着用したり安全運転をしたりする人は、『とにかく検挙されないため』という意識を持っていることが多い。『シートベルトをしていたら大丈夫だろう』というのは、目的を少し間違えている」と指摘する。

 リザプロ社長の孫辰洋氏は、教育事業を手がける中で子どもをバスで連れて行く機会などが多いとした上で、「5〜6歳になると、チャイルドシートやジュニアシートは『ダサいから』と座りたがらない。親に『座らせてください』と呼びかけて、単純に解決する問題ではない」と説明。また、「シートも安いものではない。それががなくても子どもの安全を守れるように、シートベルトを進化させることはできないのか」と問題提起した。

■着用有無で大きく変わる致死率 使用による損傷「シートベルト症候群」に要注意

 警察庁とJAFの合同調査(2023年)によると、シートベルトの着用率は、一般道で運転席99.2%、助手席97.1%、後部座席43.7%。高速道路が運転席99.6%、助手席98.6%、後部座席78.7%だった。

 なないろ在宅診療所の丸山潤院長は、シートベルトが原因の交通事故を診察した経験から、次のような事例を紹介する。「30代男性が高速道路を100キロ程度で走行中、あおられて焦ってハンドルを切り、ガードレールに衝突した。本人は歩けて『お腹痛いだけだから帰りたい』と言っていたが、精密検査で、腸の血管に穴が空き、大動脈にもヒビが入っていると判明した。手術を受けて1カ月で退院できたが、もし希望通り帰宅させていたら、その日の夜には出血性ショックで亡くなっていただろう」。

 シートベルトの有無によって、致死率には違いが生じる。警察庁の2016年〜2020年のデータによると、着用時の致死率が高速道路で0.21%、一般道で0.20%だったのに対し、非着用時はそれぞれ4.18%(約20倍)と0.63%(約3.2倍)に増加する。

 丸山氏は「時速100キロも出ていれば、シートベルトを着けていないと車外に放出されて即死だ。入院1カ月で歩いて帰れるということは、やはり着けた意味はある」。一方で、シートベルトによってケガをする「シートベルト症候群」のリスクもある。「腹部から背骨までシートベルトに押される。シートベルト痕や腸管損傷、腰椎骨折が代表的だが、体で一番太い大動脈が傷つくケースもある。それを見逃すと死亡率も高い。シートベルトを着けていないのは論外だが、着けていても見逃すと死に至る病も隠れている」。

 また、骨と内臓であれば、前者の損傷で済むほうがいいそうだ。「骨盤は折れても治しやすい。内臓は開腹して、血の海になっているところから小さい穴を探すので、出血で亡くなってしまうこともある。骨と内臓の損傷で致死率も異なる」とする。

 さらに、首回りへの負荷も考えられる。「正しく着用していれば、鎖骨や肋骨骨折になる。衝撃が強いと体内で肺挫傷が起き、人工呼吸器が必要になる場合はある。しかし、着け方が悪いと首が“くの字”に骨折し、脊髄損傷で下半身不随になることもある」と注意を促した。

■シートベルトの正しい着け方

 シートベルトの良い着用例は「鎖骨の中央から胸骨にかけて通す」「左右の腰骨にかかるように通す」こと。反対に、悪い着用例として「首にかかっている」「腹部を通っている」ことが挙げられる。シートベルトに補助器具を付け、ベルトにかかる圧力を分散させることで、効果を高める方法もある。

 体格によっても着け方に変化が出る。上西氏は「同じ身長でも、胴体が短いとシートベルトが首にかかってしまう。しっかりと鎖骨や腰骨にかかっているかをチェックしたほうがいい」と説明する。

 姿勢によっても、受ける衝撃は異なる。乗車中の正しい姿勢は、肩から背中、腰、そしてお尻までを、しっかりとシートに密着させること。猫背になったり、お尻が前に出てしまったりなどの姿勢は、衝撃が一部に集中してしまうため危険だ。

 丸山氏が姿勢の重要性を語る。「姿勢が悪く寄りかかったり、寝転がるような姿勢だと、腰骨に着けていたシートベルトがすべって腹部に食い込んでしまう可能性がある」。

 また、重要だというのがヘッドレスト。上西氏は「これまで3万件近くのドライブレコーダー映像を分析しているが、ヘッドレストがないことで、追突時に首の骨を折って亡くなった事例を3件見ている。しっかり使って欲しい」と呼びかけた。(『ABEMA Prime』より)

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