南大東空港から“日本最短フライト”へと乗り込む

 離陸してすぐに到着先の空港滑走路が見える。そんなフライト体験をしたことはあるだろうか。それがかなう場所が沖縄県にある。日本航空(JAL)のグループ会社、琉球エアーコミューター(RAC)が運航する南大東ー北大東路線だ。沖縄本島から南東約360キロに位置する南大東島と北大東島を結ぶ、直線距離約13キロの航路は、飛行時間わずか10分という“日本一短い航空路線”として知られている。しかしながら、1997年10月からおよそ四半世紀にわたって続いたこの路線は、7月31日をもって廃止となってしまう。そこで終止符が打たれる前に最短フライトを味わってきた。その模様を写真とともにリポートする。(文・写真=フリーライター・伏見学)

 那覇と南北大東島を三角形で結ぶ

 本題に入る前に、この路線の概要を説明したい。

 南大東ー北大東は単独で成り立っているものではなく、那覇を加えた通称「三角運航」と呼ばれる航空路線の一部である。起点は那覇で、週の半分は那覇→南大東→北大東→那覇の順に、もう半分は那覇→北大東→南大東→那覇と逆回りになる。これに加えて那覇ー南大東のみ毎日1往復飛んでいる。

 今回、筆者は那覇から早朝の便で南大東に飛び、1泊した後、北大東経由で那覇へと戻るルートを取った。

南大東空港の入り口にあるモニュメント「交流の門」

 7月18日、南大東島。午前中降り続いた大雨がやみ、雲の隙間から強烈な日差しが注ぐ。早めに到着した南大東空港で一休みした後、午後2時45分発のRAC735便に乗り込む。行き先はすぐ隣に浮かぶ北大東島だ。

南大東空港の搭乗待合室から徒歩で飛行機へと向かう

 搭乗する機種は「DHC-8-400カーゴコンビ」というプロペラ機である。乗客の座席数は50。本来は74人乗りなのだが、座席を減らす代わりに貨物スペースを大きく広げた、世界でも珍しい飛行機だという。機内は高級感のあるレザーシートが2席ずつ並んでおり、座り心地は非常に良い。

DHC-8-400カーゴコンビの内部。前方から写す DHC-8-400カーゴコンビの内部。後方から写す

「もう着陸するの?」ところが…

 ほぼ満席の状態で北大東島へと向かう。「まもなく離陸いたします。シートベルトをしっかりとお締めください」という客室乗務員のアナウンスが入り、プロペラが「グオーン」という音を出して高速回転する。滑走路を猛スピードで進み、瞬く間に空の上に。

定刻よりも少し早く動き出す

 窓をのぞき込むと南大東島のサトウキビ畑が眼下に広がる。すると、次の瞬間にはもう北大東島の風景が目に飛び込んできた。さらに北大東空港の滑走路も見える。「え、もう着陸するの?」と、想像以上の早さに驚いた。 

離陸直後の南大東島上空。サトウキビ畑の緑が鮮やかだ 北大東空港の滑走路が見えてきたが…

 ところが、飛行機は北大東空港の右側上空を通り過ぎ、そのまま北大東島をぐるりと1周した。やや拍子抜けしたが、後方座席の乗客たちも同じ気持ちだったようで、「なんだ、今日は特別にサービス飛行してくれているのかな…」と談笑していた。

素通りして北大東島をぐるりと1周する

 なお、すぐに空港へ入らずに旋回する理由をRACの担当者に尋ねたところ、DHC-8-400カーゴコンビだと以前の機種よりも飛行速度が速いため、ある程度時間をかけて安全な着陸準備をしなければならないという。かつて使用していた定員39人の小型飛行機「DHC-8-Q100」であればダイレクトに着陸できた。天候状況などにもよるが、その時の最短フライト時間は3分だった。

現在のDHC-8-400カーゴコンビ(琉球エアーコミューター提供) かつて使用していたDHC-8-Q100(琉球エアーコミューター提供)

 とはいえ、島を旋回するといっても3分とかからずに、最終の着陸態勢に入り、あっという間に北大東空港に到着した。時刻表では午後3時5分着となっていたが、手元の時計では午後2時55分と、ほぼ10分間のフライトだった。こうして日本最短のフライト体験は幕を閉じたのである。

旋回の途中で車輪が出てきて着陸態勢に わずか10分間のフライトを終えて無事に着陸

日本最短路線はどこに

 8月1日からは那覇ー南大東が往復2便、那覇ー北大東が往復1便の運航ダイヤに変わる。従って今後、南大東島と北大東島の間は船での移動しかできない。

 そして日本一短い航空路線の座は、日本エアコミューターが運航する奄美ー喜界(鹿児島県)の約26キロに譲ることとなる。

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