政府が力を入れ、先日の東京都知事選でも大きな争点になった「子育て政策」。そこには働く女性の出産や育児支援も含まれ、理解やケアが進む企業も増えているが、そんな風潮に対するある意見が議論になっている。
【映像】「独身をないがしろにしすぎ」 SNS上の声
「自分が若いころは結婚するな、働くなら女を捨てろと言われた。今になって自分がもらえなかった働くママへのフォローを後輩にするのはしんどい」
これに共感の声が集まり、子持ち優遇の裏で支える独身者に対してもフォローを求める意見が多数発信された。中には「好きで子どもがいないわけじゃない」との声も。「子あり」と「子なし」をめぐる分断について、『ABEMA Prime』で考えた。
■「やって当たり前の空気に不満」 子なし側が望む支援は?
契約社員として医療系の仕事をするえねさん(30代女性)は、子育て社員のしわ寄せを感じている。具体的な不満として、子育てを言い訳にすぐ休む・定時に帰るが時には遊びに行っている社員がいること、「子どもがいるからしょうがない」が免罪符になっていること、独身や子なしには人権すらない感覚を覚えることがあるという。
「残業をすること自体に不満はないが、独身で子どももいないと、仕事を肩代わりした時に“やって当たり前”の空気がある。それがすごく不満だ」
一般社団法人WINK代表理事の朝生容子氏も、「サポートして当たり前」に対する不満の声が多いと指摘。「私の調査では、不満の矛先は育休や時短勤務をしている当事者よりも、管理職に向いていた。業種による偏りはないが、これまで育休などを取るのは女性が多かったので、“女性の職場”で起こりやすい印象を受ける」と話す。
そんな中、“育休カバー”に手当を支給する会社も増えつつある。サッポロビールでは今夏から、業務をカバーした社員のボーナスを上乗せ。タカラトミーは7月から、育休取得者の部署の社員に「応援手当」を試験導入する。沖電気工業では4月から、業務を支援した同僚に最大10万円の支給を開始。また、三井住友海上火災保険は昨年7月から、同じ職場で働く同僚に最大10万円を支給している。
とはいえ、朝生氏は「育児休業法が1991年に成立して以降、育休をカバーする人の不満は連綿としてあっただろう。ただ、調査した2019年時点ではないことにされるような空気があった。最近の手当支給の動きは、男性育休が一般化してから、つまり男性が当事者になってから始まったのはモヤッとする部分がある」と疑問を呈する。
これにテレビ朝日の田中萌アナウンサーは、「子どもを産みたいから仕事をセーブするか、仕事をバリバリやりたいから子どもを諦めるか。その2択を迫られるのは、今の時代も同じだ」と考察。「私は今子どもがいないので、『仕事を回してほしい』と思うが、裏を返せば子どもがいたらこの仕事量はこなせない。結局誰かに頼る必要があると思うと、ますます出産に消極的な気持ちになってしまう」と明かした。
朝生氏は、男女雇用機会均等法が施行された1986年前後に働き始めた「均等法第一世代」の立場から、「その構図は変わっていない」と同意する。「平成16年(2004年)版男女共同参画白書で、第一世代が今どうしているかを調査していたが、働き続けている人は少なかった。その中の半数以上は結婚をしていなく、7割以上は子どもがいない。働き続けられた理由として『結婚しなかったから』『子どもを持たなかったから』が挙げられていた」。
子どものいない人々は、どのような支援を求めているのか。朝生氏が2020年に行った調査では、「業務をカバーした分の対価を上げてほしい」「全社員がフレックス制度を活用できるように」「業務をカバーした分の評価を上げてほしい」といった意見が出た。
えねさんは「ありがとうの一言で救われる」と話すものの、「金銭的な支援など、それなりの対価が欲しい。それで納得できる人もいるだろう」とした。
■独身・子なしは自己責任? 子持ちからの“不快な経験”も
最近では、子どものいる親を皮肉る“子持ち様”なる単語も生まれている。フリーアナウンサーの国山ハセンは「反対に『独身貴族』『子なし貴族』という言葉もある。自らの選択であり、自己責任だとも言われる中で、カテゴライズすることでギスギスを生んでしまう」と指摘。
タレントの山崎怜奈は「『自分が選べなかった人生』を生きている人に対する“ざらり”とした感覚は昔からあったが、それがSNSで可視化されただけではないか。そのタイミングに子育て政策が絡んだが、『分担して背負っている』という声はずっとあったはずだ」との見方を示す。
朝生氏が行った、子どもがいないことで受けた「不快な経験」の調査(母数88人、いずれも複数回答)では、「子どもはいかに素晴らしいかを聞かされた」が54人、「子どもがいない原因を追究された」が37人、「子どもはいかに大変かを聞かされた」が35人。また、「不快な経験」にどんな行動をとったか聞くと、「何もしなかった」が44人、「仕事のモチベーションが落ちた」が28人、「誰にも相談できなかった」が12人と続いた。
こうした結果に対して、「『子どもを育てるのが素晴らしい』と言ってはいけないのか?」という反応があるという。「圧力になってしまうのが問題。職場のみんなが『子どもかわいい』といっている中で、その話題に入れないとこういう声が出る。押しつけになる環境がなんとかならないものか」。
一方、ライター・編集者の速水健朗氏は、酒井順子氏のエッセイ『負け犬の遠吠え』(2003年)を引き合いに、「独身者の視点から『社会は結局、子どもを産んだ人が勝っている』と書かれている。しかし、その後20年で日本も変わり、『マウンティングはおかしい』という前提で議論ができているのは、ずいぶん進歩したと感じる」と語る。
朝生氏は、「職場や話す場に、いろいろな境遇の人がいたほうがいい」と提案する。「女性だけだと『子どもいる・いない』で二分されてしまう。外国人や障害者、男性も……と入ることで違ってくる。単純に『お金を払えばいい』という話ではなく、子どもを持っていない人が後ろめたさを感じて、本音が言えない現状に問題がある。対価の要求も含めて、そういう声を聞ける雰囲気を作ってほしい」。(『ABEMA Prime』より)
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