国立大学病院長会議の記者会見で、各病院の経営について「非常に末期的な状況」と訴える大鳥精司会長(中央)=東京都千代田区で2024年7月26日午後4時2分、西本紗保美撮影

 国立大学病院長会議は26日、全国の42国立大病院のうち約半数となる22病院で2023年度の経常損益(速報値)が赤字だったと明らかにした。全体でも60億円の赤字で、04年の国立大学法人化以降初めての赤字となった。人件費や医療費の増加、物価高騰の影響などが主な理由で、国立大の経営悪化の一因となっている。

 病院長会議によると、42病院全体の収益は10年度以降増加し続けており、23年度決算でも前年度比184億円増の1兆5657億円を計上。一方で働き方改革に伴う人件費や医薬品費、材料費が増加し、新型コロナウイルス感染症に関する補助金が23年度途中で廃止となったことで増収減益となった。

 光熱水費についても、新型コロナ感染拡大前の5年間の平均と比較して約98億円増えた。大学病院は高度医療を安定的に提供するために電力削減が困難な装置も多く、費用の増加幅も大きくなるという。高度医療の提供に必要な施設や設備を更新しなければならず、経費の削減が難しい状況にある。

 24年度はさらに赤字幅が拡大する見通しという。大鳥精司会長(千葉大医学部付属病院長)は記者会見で「各病院の経常赤字は非常に大きく、末期的な数字で危機的状況だ」と述べた。

 国立大を巡っては、国立大学協会(会長=永田恭介・筑波大学長)が6月、国立大の財務状況について「もう限界」と異例の表現で訴え、国民に理解を求める声明を発表した。声明では、国立大の財政を支える国からの運営費交付金の削減に加え、物価高騰などで実質的に予算が目減りし続けていると指摘している。

 大鳥会長は「大学全体の経営を考えると病院の収益は6割を占める。病院が経営破綻すると、大学自体の存続自体に関わる」と強調。病院を持つ国立大に対しては運営費交付金を手厚くするなどの傾斜配分について「一つの考え方だ」と話した。

 一方で、一部で検討されている国立大の授業料引き上げについては「病院の赤字補塡(ほてん)による値上げは合意が得られない。学生の平等性を担保して理解が得られるという条件でなければ進めにくいと思う」と否定的な見方を示した。【井川加菜美】

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