交通安全のために設置されたカーブミラーが、老朽化などで倒れる事故が各地で相次いでいる。愛媛県では5月に2件発生し、うち1件は小学生がけがをした。カーブミラーは信号機や道路標識とは異なり、法令上の点検義務がなく、適切に管理されていないケースが目立つ。専門家は「再発防止のためには、自治体独自の条例などルール作りが必要だ」と指摘している。
愛媛県新居浜市で5月5日午後4時半ごろ、住宅街の市道交差点に設置していたカーブミラー(高さ約3メートル)が根元付近から倒れ、近くを通りかかった小学生の男児の頭部に当たった。救急搬送後、検査で頭蓋骨(ずがいこつ)や脳への異常がないことは確認されたが、首の痛みがあり、通院を余儀なくされた。
新居浜市内では、2022年12月にも別の市道のカーブミラーが倒れ、車に接触する事故が発生。これを受け、市は同月末に市道上の約3300基のカーブミラーを点検。331基で根元が腐食するなどの異常を確認し、劣化が激しい14基を交換した。今回、男児がけがをしたカーブミラーは、この時の点検で塗装の一部がはがれ、腐食しているのが確認されていたが、早急な交換の必要はないと判断し、腐食が広がらないように補修テープを巻いて応急的に補強しただけだった。
事故当時、市内には強風注意報が発表されており、市は、劣化と強風の影響で倒れたとみている。市の担当者は取材に「22年末の点検の際に交換すべきだった」と釈明。市は今後、カーブミラーの設置日や場所などを記録して管理し、定期的な点検を行うとしている。
24年5月16日には、愛媛県西条市でも市道の1基が倒れたが、事故は愛媛県内にとどまらない。長野県松本市でも4、5月に相次いで市道の2基が倒れた。広島県福山市では23年1月に私道のカーブミラーが倒れた。福山市は、倒れたのは住民らが設置したものだと推測するが、いつ誰が設置したのかは不明という。市は年5回、市道上のカーブミラーの点検をしているが、担当者は「私道のミラーまでは把握できず、安全確認もできない」と困惑する。
メーカー、約10年での交換を推奨
カーブミラーは自動車の増加などを背景に1975年ごろから設置が増えていった。道路管理者のほか、一般の人が私道や自宅敷地内に設置することも可能だ。
カーブミラー製造販売の国内最大手「海道工業」(福井市)によると、同社製のものでは、ミラー部分の直径が60センチ~1メートルの数種類があり、支柱も含めた重さは約25~50キロになる。一般的には約10年での交換を推奨しているが、潮風があたる海沿いなど設置場所の環境に劣化の程度は左右され、早いものでは数年で交換が必要になるという。同社の担当者は「根元部分などは特に劣化しやすいので、管理者が定期的に点検、交換を実施し、適切に使ってほしい」と呼びかける。
しかし、カーブミラーは管理体制が構築されていないのが実情だ。道路標識は道路法で5年に1度の点検などが義務づけられており、信号機は道路交通法に基づき、都道府県の公安委員会が点検管理のルールを定めている。一方でカーブミラーは補助的な位置づけのため点検義務を定めた法令はなく、点検を10年以上実施せず、設置場所や数を明記した台帳を作成していない自治体もある。
危機管理に詳しい近畿大学の島崎敢(かん)准教授は、点検ルールがないため放置されている危険なカーブミラーが全国で相当数ある可能性を指摘し、「定期的に点検されるように自治体独自の条例などルール作りが必要だ」と話す。設置場所の確認には、風景がくまなく撮影された画像が見られるグーグルマップのストリートビューなどの最新技術を活用することや、住民が異常を通報する体制をつくることを提案。「個人がSNS(ネット交流サービス)で『#危ないカーブミラー』などと拡散し、注意喚起もできる。今後は管理者側と利用者側が協力して管理していくことも必要なのではないか」と話している。【広瀬晃子】
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