死体遺棄事件の検挙人数

 自宅で亡くなった高齢の親の遺体を放置したとして、同居する中高年の子が死体遺棄容疑で逮捕される事件が全国で相次いでいる。80代の親がひきこもり状態などにある50代の子を養う「8050問題」が背景にあるとみられるケースが目立ち、「9060問題」に移行した末に起きた事件もある。

 8050問題の名付け親となった大阪府豊中市社会福祉協議会事務局長でコミュニティーソーシャルワーカーの勝部麗子さんは「事件は当事者家族が行き着いた最終地点。社会的孤立を象徴する出来事だ」と警鐘を鳴らす。

死体遺棄事件、40代以上に増加傾向

 警察庁によると、死体遺棄事件の検挙人数は40代以上に増加傾向があり、2023年は40代が19人(14~23年の平均は14・6人)▽50代が52人(同26・3人)▽60代が31人(同18・2人)▽70歳以上が24人(同12・2人)――となった。このうち、50、60代はそれぞれ14年以降で最多となり、職業別では40代の57・9%、50代の75・0%、60代の77・4%が無職だった。

 同庁は40代以上の増加傾向の理由について「さまざまな要素があると考えられ、一概にお答えすることは困難」としているが、毎日新聞の記事データベースを調べると、同居する高齢の親か、親とみられる高齢者の遺体を放置したとして死体遺棄容疑で逮捕された人は23年に全国で20人以上確認された。ほとんどが40~60代で無職だった。

 逮捕後の調べに「遺体をどうしたらいいか分からなかった」「人と話がしたくなかった」などと話す人が後を絶たず、背景に「8050問題」が潜んでいることをうかがわせるケースが目立つ。不起訴になった事例も少なくない。

「葬儀の手続きができなかった」

 神奈川県内の無職男性(63)は23年6月、95歳で亡くなった父の遺体を半年にわたって放置したとして逮捕された。男性は「お金がなかったので葬儀の手続きができなかった」と容疑を認め、その後不起訴となった。

 関東地方に住む60代の無職男性は今年、90代の父の死体遺棄容疑で逮捕された後、亡き父の年金をだまし取ったとする詐欺容疑で再逮捕された。裁判で執行猶予付きの有罪判決を受けて釈放された男性は毎日新聞の取材に、「今後の生活を考えると人を呼べなかった」と語った。

 内閣府が19年に公表した「生活状況に関する調査」では、40~64歳でひきこもり状態にある人は推計61万3000人だったが、同府が23年に公表した「こども・若者の意識と生活に関する調査」では推計84万人だった。いずれの調査も、半年以上にわたって趣味の用事や近所のコンビニなどに出掛ける時以外は外出しないなどの条件を満たす人を「広義のひきこもり」と定義し、人数を推計している。調査が異なるため単純比較はできないが、中高年の当事者が増えている実態をうかがわせる。

 また、ひきこもり状態にある人の年代別の割合を見ると、19年調査が40代38%▽50代36%▽60代26%――だったのに対し、23年調査は40代22%▽50代42%▽60代36%――となっており、当事者が高齢化している可能性もある。

もしもの時はSOSを

 8050問題に詳しい愛知教育大の川北稔准教授(社会学)は「死体遺棄事件に限らず、親が入院するなどして子どもが家に取り残されるケースは増えている。社会的孤立防止の観点で見ると、もしもの時にSOSを出してもらうような取り組みが必要だ」と指摘する。【千脇康平、平塚雄太、隈元悠太】

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