36人が犠牲になった2019年の京都アニメーション放火殺人事件で、京アニや遺族有志などでつくる「志を繋(つな)ぐ会」は、京都府宇治市の公園に事件を伝える碑を設置し14日、市に寄贈した。事件を巡り、碑が建立されるのは初めて。事件は18日、発生から5年となる。
宇治市には京アニの本社がある。碑は、京阪宇治駅前の「お茶と宇治のまち歴史公園」に設置された。高さ約3メートル、幅約2メートル。「温かみ」「優しさ」が感じられるようにと、36人の個性を表す36羽の鳥がはばたく姿が表現され、「志を繋ぐ碑」と命名された。京アニ社員らが約40の原案を作成。遺族有志らと議論を重ね、東京芸術大の教授らがアルミを鋳造して制作した。
「アニメーションを通じて果てしなく広がる夢 1本の線を描くのにも長年培った技術と深い想(おも)い 子どもたち、そしてすべての世代に届く確かな映像と物語 ここ、宇治・京都から世界に向けて発信していく」といった碑文が刻まれた。
碑は、正面から向き合うと、事件現場となった京アニ第1スタジオ(京都市伏見区)があった方角を望む形になる。碑を管理する宇治市は「事件に関わった全ての人の志をつなぎ、長く記憶にとどめる象徴として設置した」としている。一方、現場跡地では、慰霊碑の設置が検討されている。
14日午前、園内で設置報告会が開かれ、京アニ関係者や遺族のほか、西脇隆俊・京都府知事ら約90人が出席。「私たちは大切な仲間のことを忘れたことはありません。世界各国からの励ましを原動力に、志に未来をつないでいく、その一心で、私たちにできる精いっぱいを映像制作に込めてきました」とする京アニスタッフ代表のメッセージが代読された。
遺族を代表し、事件で娘が犠牲になった父親は「亡くなった方々をしのび、彼らの情熱と技術をたたえ、そして未来に向けての誓いをたてる場としてここに立たせていただいています」とし、「作品が多くの人々に希望と感動を与え続けていることを私たち遺族は誇りに思っています。これからも作品が多くの人々の心に残り、亡くなったスタッフの思いが生き続けることを願っています」とあいさつした。
報告会後、碑は一般公開された。京アニ作品のファンという愛知県田原市の会社員、福井幸司さん(38)は「(事件当時は)すごくショックを受けたし、お祈りもできなかった」と訪れた理由を説明。「碑はこれから未来に巣立っていくという思いが伝わってきて素晴らしい。亡くなった方々の思いを引き継いだ作品を楽しみに見たい」と話した。【水谷怜央那、日高沙妃、鈴木健太郎】
1審は死刑判決、2審の期日は未定
事件で殺人などの罪に問われている青葉真司被告(46)に対し、裁判員裁判で審理した京都地裁は1月、求刑通り死刑の判決を言い渡した。被告側はこれを不服として大阪高裁に控訴しているが、2審の日程は決まっていない。
青葉被告は143日間に及んだ公判で、京アニに自身の小説を盗用されたと思い込み、ガソリンに火を放ったと説明。「当時はこうするしかないと思った。現在ではやり過ぎたと思っている」と述べた。
争点になったのは、精神障害による妄想を抱えていた被告の刑事責任能力の有無や程度。判決は妄想の影響は限定的とし、事件直前の行動も合理的だったとして完全責任能力があったと認めた。【水谷怜央那】
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