福島県国見町が官民連携で高規格救急車を開発して貸し出す事業を中止した問題で、町議会が地方自治法100条に基づいて設置した調査特別委員会(百条委)が10日、報告書を町議会に提出して可決された。備蓄食品製造会社「ワンテーブル」(宮城県多賀城市)が事前に町の仕様書の作成に携わり、同社以外に開発製造が不可能な仕組みになっていたとして、「入札に見せかけた実質的な随意契約だ」と結論付けた。
この問題では、町が匿名の企業3社から受けた計4億3200万円の企業版ふるさと納税を原資とし、高規格の救急車12台を研究開発して他の自治体にリースするとうたって事業者を公募。ワンテーブルだけが応募して受託し、車体は「ベルリング」(東京都)が製造した。
だが、ワンテーブルの社長(当時)が「超絶いいマネーロンダリング」「行政組織を分捕る」などと不適切な発言をしていたことが河北新報の報道で発覚し、町は信頼関係が失われたとして事業を中止。救急車12台は県内外の消防組合や病院などに無償譲渡された。
町議会は2023年10月に百条委を設置し、ワンテーブルの当時の社長や引地真町長らを証人喚問するなどして調査を進めた。報告書は「事業成果品(の救急車)12台は、すべて他自治体へ譲与され、残っているのは成果報告書だけ。事実上、町民全体の財産を無駄に使用した一種の背任と見るべきだ」と指摘した。
報告書の可決後に福島市の県庁で記者会見した百条委の佐藤孝委員長は、企業版ふるさと納税で寄付したのはIT大手「DMM.com」とそのグループ企業だったとし、グループ会社がその寄付金を使った町の事業を請け負う「寄付金還流システム」があったと指摘した。ベルリングもDMMのグループ会社で、DMMは寄付による税優遇を受け、グループ企業が車体製造による収入を得ていたという。佐藤氏は「本来は民間企業が行うべき高規格救急車開発を、知識のない町職員が事業を進めたことがずさんな業務執行へとつながった」と非難した。
また、報告書は「政治への不信と町の信用喪失は甚大。その責任は極めて大きく重い」として、引地町長に対し辞職を含めた進退の決断を求めた。百条委の報告を受け、引地町長は「報告書を真摯(しんし)に受け止め、同様の事態が発生しないよう対応していく。具体的な再発防止策を取りまとめ実行していくことで、町民の皆さまの信頼回復に努めていく」とコメントした。DMMとワンテーブルは毎日新聞の取材に対して回答しなかった。【松本ゆう雅】
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