若者を中心とした大麻汚染への危機感が高まっている。警察庁によると、昨年の大麻の摘発人数は過去最多を記録し、初めて覚醒剤を上回った。20代以下が全体の7割以上を占め、10代は前年から3割以上増加。極端な若年化に加え、サイバー犯罪化も際立つ。警察当局と厚生労働省の麻薬取締部(通称マトリ)は新設される使用罪を武器に、組織の命運をかけて蔓延(まんえん)阻止に挑む。
摘発人数、覚醒剤超え
警察庁によると、令和5年の大麻の摘発人数は6482人と前年から21・3%増え、平成28年以降減少を続ける覚醒剤(5914)を初めて上回った。20代以下が全体の73・6%を占め、10代は1222人と前年比で310人(33・4%)増えた。
厚労省医薬局監視指導・麻薬対策課の分析では①インターネットで「大麻には有害性がない」といった誤情報が流布②海外で大麻合法化の傾向がある③交流サイト(SNS)で若年層が容易に購入できる④秘匿性の高いアプリで取引が行われる-などが大麻汚染の背景にある。
マトリ関係者は「戦後の日本が何度も経験した薬物汚染だが、売買取引の現場が実空間から仮想空間(サイバースペース)に完全移行してしまった点でまさに最先端の犯罪といえる」と語る。
マトリは関東信越厚生局など全国9カ所に置かれ、同局は平成31年3月にコカインを使用した麻薬取締法違反容疑で俳優のピエール瀧さんを逮捕、令和元年5月には、旧ジャニーズ事務所所属のKAT-TUNメンバーだった田口淳之介さんを大麻所持の大麻取締法違反容疑で逮捕した実績=2人はいずれも有罪判決=もある。
一方、近年の大麻汚染を受け、警察OBは「自分の古巣(警察)も危機感を共有しているが、マトリは尻に火がついているようだ」と推察する。大麻取締法は厚労省の所管で、焦燥感を抱くのは法規制の有効性に責任を負う立場だからだ。マトリ関係者も「大麻の蔓延阻止に組織の命運がかかる」と話す。
おとり捜査が武器
所属する約300人の麻薬取締官には捜査権や逮捕権があり拳銃所持も認められているが、司法警察職員である一般の警察官とは異なり薬物に限定された特別司法警察職員だ。留置場を持たないため、関係者は「逮捕後は警察署に間借りする例もあって心苦しい」と本音を吐露する。
一方で大きな武器もある。おとり捜査だ。
警察官もおとり捜査はできるが、薬物を譲り受けることができないため連絡を取った密売人をおびき寄せたところで逮捕しなければならない。だがマトリは大麻を譲り受けることが、法律で認められているのである。
ある取締官は「液体大麻(大麻リキッド)の成分を蒸発させて吸引するのが、何が格好いいのか理解できないが、リキッドなんて軽い呼び方もファッション性を高めている」とあきれ顔だ。
厚労省は各都道府県警と現場レベルで連携を強めつつ、独自に交流サイト(SNS)などネット空間の悪用対策に着手。昨年4月に関東信越厚生局麻薬取締部にサイバー捜査課を新設し、捜査手法の高度化に乗り出している。
また大麻に似た成分を含むグミを食べた人の健康被害が相次いだことを受けて同12月から合成化合物HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)を省令で規制。7年以下の懲役の罰則を科す大麻使用罪を新設した改正大麻取締法が今夏にも施行される。
警察庁の露木康浩長官は3月の記者会見で、「大麻が(昨年の)キーワード。改正法が今年施行され、使用が処罰の対象になることを踏まえ、関係機関と連携していく」と決意を述べた。
「未成年の大麻汚染は警察かマトリかという次元で論ずべきものではなく、少子化する日本の担い手世代をオールジャパンでどう導くかという問題だ」。警察幹部はこう述べ、力を込めた。
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