聴衆は手荷物検査を受け、政治家は聴衆から一定の距離を取る――。2022年7月の安倍晋三元首相の銃撃事件を受け、選挙の街頭演説の要人警護では、そんな光景が当たり前になった。東京都知事選でも、警察は政治家と聴衆の安全確保に腐心した。
2日午後6時ごろ、東京都千代田区のJR秋葉原駅前。都知事選に立候補していた現職の小池百合子氏の街頭演説会には多くの聴衆が詰めかけた。
秋葉原駅前は、17年の都議選の街頭演説で、聴衆から「辞めろ」というヤジを受けた安倍氏が「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と発言したことが注目された場所だ。
目立つのは制服警察官の姿だ。警視庁のSP(セキュリティーポリス)を含めて100人近くが目を光らせる。制服警察官が2メートル置きに並ぶ場所もあった。
小池氏がマイクを握った選挙カー上から最前列の聴衆までは10メートル以上の距離が確保された。10メートル以上というのは、事件後に要人警護において現場で徹底されている安全確保のための距離だ。
警察官や陣営関係者は事前に聴衆に対し、周囲を鉄柵で囲まれたエリア内に入るよう促していた。手荷物検査や金属探知機を使った身体検査も実施。小池氏を批判するプラカードを持った人が入場を止められる場面もあった。
小池氏の演説中、4月の衆院東京15区補欠選挙を巡る選挙妨害事件で幹部らが逮捕された政治団体「つばさの党」の選挙カーが2度現れた。だが、会場のロータリーは車が入れないように交通規制されており、小池氏には近づけなかった。
小池氏は演説が終わると選挙カーを降り、短時間だったが多くのSPに囲まれながら前方の聴衆とグータッチをした。ヤジが飛ぶ場面もあったが、大きな混乱はなかった。
23年4月には和歌山市で岸田文雄首相に爆発物が投げられた事件があり、警察は握手やグータッチは避けることを選挙陣営側に求めている。一方で、有権者との触れ合いを望む政治家側の声もあり、手荷物検査や身体検査を受けた聴衆に限った実施になっている。
先端技術の導入も進む。都知事選では、カメラ付きドローンで現場を確認したほか、不審者が銃を取り出すなどの動きを人工知能(AI)で検知するシステムも活用した。「AIに学習させながら使っている段階」(警視庁幹部)という。
安倍氏の事件後、各都道府県警が作成する要人の警護計画は、警察庁が全て事前にチェックする仕組みになり、今年6月末までに警察庁が審査した警護計画は約6300件で、約75%は警察庁が修正したという。
次期衆院選や来年の参院選では警護対象となる首相や閣僚、政党幹部が候補者となるため、審査する計画案や警護の現場が同時期に急増することが懸念されている。単独でテロ行為に及ぶ「ローンオフェンダー」への対策も必要だ。
警察庁の露木康浩長官は「選挙運動に伴う警護は、通常の警護に比べて格段に危険度が増す現場となる。選挙の自由妨害など選挙を取り巻く情勢の変化にも十分対応する必要がある」としている。【木下翔太郎、山崎征克】
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