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 2018年5月、世間を大きく賑わわせた、日本大学アメリカンフットボール部の「悪質タックル問題」。渦中の人物となったのが、当時の監督・内田正人氏(68)だ。6年前の騒動は何だったのか……メディアや世間への思い、その後の暮らしについて、内田氏が『ABEMA Prime』の独占取材に応じ、辞任後初めてカメラの前で告白した(聞き手はカンニング竹山)。

【映像】辞任後初、内田正人元監督がカメラの前で告白

■報道をチェック、メンタルに悪影響…しかし「一市民として“叩く”のは欲していたこと」

 当時、テレビは連日連夜タックル問題を取り上げ、内田氏は“精神論を振りかざす古いタイプの監督”として描かれた。

カンニング竹山(以下、竹山):当時はメディアをご覧になっていた?

内田正人氏(以下、内田):ニュース番組は午前5時ぐらいからやっていますから、初めの頃は勇気を出して見て、ネットもほぼチェックしました。もう逃げられないので。それが精神的にちょっと悪かったのかなという気もしないでもない。

竹山:その時の心境は?

内田:朝が勝負なんですよ。起きた時が一番の勝負どころなんです。起きた時に『今どこにいる?』って自分に言うんですよ。どこかに連れて行かれるような感じになるんです。それでちょっとヤバいなと。

メディアでいろいろなコメンテーターが言っているんだけど、それを擁護というか、見たいのは僕自身だったんですよ。事件の前は、そういうネタをテレビで見たい一市民だった。スキャンダラスなことをバンバン叩いて、ネットで大騒ぎして、そういう現象を僕自身が欲していたのかと。これは僕にも責任があるのかなと思ったんです。そうなったからわかるんですよね。

竹山:記者会見でメディアの人たちは『指示しましたよね?』という感じで聞いてくる。それを受けた時どうでしたか?

内田:予想どおりの質問なので、「指示していません」で済む。これだけいろいろな情報が入ってくるのに、何でこんなワンパターンなのかと。違う角度で見て、感じて来る人は1人もいないんですよ。ただ「指示しましたか?」の1点だけ。“あなたたち高学歴で会社に勤めてるのに、上司に言われたこと右へならえで取材に来てますね”ということを思った。

“この人だけ悪い”――。たしかに悪いんだけど、そういう人間を作ってしまったのは、例えばマスコミも一枚噛んでいる部分もあるじゃないですか。その中で、違う考えの人が出てくれば別ですけど。竹山さんみたいにいろいろ反論する人たちじゃないじゃないですか。結論として納得するのもいいんだけども、『ちょっと待てよ』と違う方向から見る人も出てくればいいんじゃないかなと。

■「刑事事件になったほうが白黒つくと思った」「いろいろな角度から考えて」

 騒動から約2カ月、第三者委員会の答えは、内田氏たちの主張を退け、「監督とコーチの指示があった」というもの。内田氏と井上奨元コーチの2人は大学を去ることになった。

 しかし、警察による捜査とその判断は、大学やメディア、世論の空気と全く異なるものだった。200人以上の関係者から話を聞いたほか、試合映像の解析などを実施。その結果、監督・コーチによる「タックルの指示はなかった」との結論を出し、「嫌疑なし」の意見書をつけ、書類送検した。

 そして、騒動から1年半の時を経て検察が出した判断は「嫌疑不十分で不起訴」。法的な罪には何も問われなかった。日大は懲戒解雇を撤回。大学とは和解したが、内田氏は退職を選んだ。

 一方、長い時間を使ってバッシングしたメディアは、不起訴処分をほとんど報じなかった。また、第三者委員会も結論を覆すことなく、関東のアメフト連盟による「永久追放」の処分も取り消されなかった。

内田:僕個人からすると、刑事事件になったほうが良かった。そのほうが白黒つくと思ったんです。

竹山:自信はあったわけですね、自分なりに。「指示したわけじゃない」っていう。

内田:1対1の密室での話ではなく、その他大勢いるわけじゃないですか。嘘も出てきちゃうだろうし、容疑は成立しないと思っていました。警察ってそんな甘くないじゃないですか。

一番感じるのは、1つの考えに凝り固まらないこと。“これが正解だ”“いや、違う考えもあるんじゃないの?”と、いろいろな角度から考える。

竹山:6年経って、だいぶいろいろなことがわかってきたじゃないですか。ちょっと違った、あの時は間違いだったって。「内田さん、戻って来て下さい」みたいなこととか、そこ変えてもいいんじゃないかなと思うんですけど、未だに変わらないじゃないですか。そのへんはどうお考えですか?

内田:「調査と捜査は違うんだ」と。第三者委員会の調査は、名前を伏せる。「ここだけの話で集めた内容だから、刑事事件とは全然違うんだ」というふうにはっきり聞きました。彼らは、世論と外れたことを言うと自分たちの先の仕事にも関わってくる。あの場面だと。世論に寄った結果を出さないと、生活にならないわけです。だから、第三者委員会や調査委員会というものは、もう限度がきていると思います。

彼らは、完全に人間を否定する機関になっちゃっているんですよ。そこから直していかないと、やっぱり“私刑”に近い組織になってしまうと思います。人権や尊厳を考えた場合、限度があると思います。

竹山:だからこそ「変えて欲しい」ってないですか?それを受け入れたままだと……。

内田:いや、もう変わんないと思います。

■「履歴書が書けない」

 大学生になってから始めたアメフト。その後は指導者として、ずっと関わってきた。この日、取材で訪れたのも、選手だった頃の先輩が営むお店。アメフト一筋で歩んできた人生が、突然奪われた。

内田:履歴書が書けないんですよ、怖くて。履歴書を出せば、住所や前職を書かなきゃいけない。今はネットで全部調べられますから、初めからレッテルがついてしまう。どこに行っても、全部知れ渡ってしまう。それがネックでした。

竹山:お仕事はされているんですか?

内田:ずっとしていなかったんですけど、今年の2月ぐらいから、ホテルの客室清掃です。

竹山:だいぶ違いますよね?前の生活とは。

内田:自分をリセットするためには、同じ生活環境・同じレベルのことをやりたくなかったんです。“日大の監督”“大学の常務である内田”の延長線でやっていると、絶対悔いが残るなと。自分で違うものを見て、アジアのいろいろなところから出てきて一生懸命働いている子たちを見ているほうが、僕にとってプラスだと思った。ちょうどいい、自分をリセットするための職場だと思ってます。

■違法薬物事件など不祥事が続いたアメフト部…「僕の責任でもある」

 知り合いを頼り、ホテルの清掃員として動き出した内田氏。アメフトの指導に戻る気はないというが、悔いが残るのはやはり学生のこと。2023年に発覚した、アメフト部の違法薬物事件。学生寮から大麻や覚せい剤が見つかり、11人の部員らが摘発された。しかし、大学はすぐに警察へ通報していなかった。

内田:コーチ陣の薬物に関する危機感が少なかったと思うんですよ。そういう噂を聞いたら、ほぼやっていると思って対応しますよね。

竹山:内田さんが現役の監督だったらどうします?

内田:もう警察に行きます、その子を連れて。残った子も全員白黒つけます。なぜかというと、早い内に警察に行けば、警察はちゃんとやってくれるんですよ。ちゃんとペナルティを与えてもらって、大麻を止めるきっかけにもなるんです。カムバックするんだったらするで、そこでできたと思うんですよ。しかし、あそこでグズグズしたもんだから、次の年の7月まで大麻をやってしまったわけです。そこで止められなかったのは、本人にとって一番マイナスなことじゃないですか。そこで厳しく指導していれば、こんなことにならなかっただろうなと。

子どもに前科をつけた責任っていうのは僕にもあると思います。それがすごく心残りです。僕の責任でもあると思いますよ。

私が辞めた後、合宿所でお酒を飲んだり、タバコを吸ったり、夜にクラブに行くとかが多くなってきた。僕が監督の時代も、抜け出して飲みに行くとかは当然あったと思います。けれども、飲みに行って朝方帰って来ても、どんな状態でも次の日の練習は手を抜かさせないわけです。それは自分で責任を持って飲みに行く。

竹山:内田さんの時代は、学生たちを大人として扱っていたという感じですか?

内田:そうです。

竹山:それが後半、段々時代のズレもあったりとか、ちょっと自分の中で違ったかなという。

内田:そうです。

(『ABEMA Prime』より)

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