車に取り付けたアルコール・インターロックに息を吹き込むと、ディスプレーに数値が表示される=東海電子提供

 千葉県八街市で下校中の児童の列に飲酒運転のトラックが突っ込み、5人が死傷した事故は28日、発生から3年となった。

「飲酒運転ゼロ」掲げ

 運転手の呼気から基準値以上のアルコールが検知されると車のエンジンがかからなくなる装置「アルコール・インターロック」が国内の自家用車にほとんど普及が進んでいない。国内で先駆けてインターロックの製造・販売をしてきた「東海電子」(静岡県富士市)の杉本哲也社長(53)は「企業や個人での使用事例を増やし、『飲酒運転ゼロ』を働きかけていきたい」と話す。

 インターロックとは、運転手から呼気1リットルあたり0・05ミリグラム以上のアルコールが検出されるとエンジンがかからないようにする装置。1980年代後半に米国で開発された。同社によると、2000年以降、北米や豪州、欧州で、飲酒運転で検挙された人に対し、取り付けを義務化する国が増えているというが、日本では法制化に関する議論すら進んでいない。

 同社は販売を始めた09年から約3200台を出荷。購入は企業がほとんどで、千葉県内では16事業者が計76台を導入している。

 一方、同社が個人に販売したのは22台にとどまっている。だが、3年前に八街市で児童5人が飲酒運転のトラックにはねられ死傷した事故をきっかけに問い合わせは増加。「八街事故を見て怖くなった。自分の家族が小学生をひいてしまうこともあり得る」など約3年間で70件以上が寄せられた。

「東海電子」の杉本哲也社長=同社提供

 同社は元々、小さな町工場だったが、1999年、東名高速道路で飲酒運転のトラックに追突された車に乗っていた女児2人が亡くなった事件をきっかけに、アルコール検知器の製造に乗り出した。八街市の事故の時、杉本さんは仕事中にニュースで知ったが「(自分は)今まで何をやってきたんだろう」と力が抜けたという。「周囲の人が気付いて、止めることができたケースだったと思った」という。

アルコール依存症の父持つユーザーのリポート公開

 八街の事故後、同社はインターロックについて紹介する特設サイトを作成。個人で購入した三重県に住む一家のユーザーリポートを公開した。登場する男性の父親はアルコール依存症で、飲酒運転を注意しても聞かないという。「事故を起こし、加害者になってしまうのでは」と悩み、行政や警察に相談したが解決には至らず、困り果てた時にインターロックを知ったという。約1年かけて父を説得し、ようやく取り入れた。装着してからは安心できるようになり「物理的に飲酒運転を阻止できるインターロックは家族の味方です。課題はあると思いますが、標準で付けてほしいと依存症の家族として思います」と語っている。

 杉本社長は「飲酒運転の違反者は年間約2万人だが、摘発されない潜在的な飲酒運転者は推定40万~50万人いると言われている。インターロックはまだ浸透していないが、法制化を推進していきたい」と力を込めた。【近森歌音】

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