梅雨の大雨により、過去6年で3度の浸水被害を受けたイオンの店舗が九州にある。川沿いの低地に立地し、防水板などの対策を講じても被害が続いた。今年は敷地を囲む土手や防水板を高さ約2メートルにかさ上げするなど水への備えを強化しており、地元住民からは「まるで要塞だ」と驚きの声があがる。
店は福岡県小郡市の「イオン小郡ショッピングセンター(SC)」。田んぼに囲まれた敷地は約11万8000平方メートル。平屋約3万平方メートルの店舗に総合スーパーや約70の専門店が入る。2013年の開業以降、地域の買い物の拠点となっている。
最初の被災は18年7月の西日本豪雨だった。周囲の水の流入で駐車場は冠水して湖のように。店舗も水につかり全店で約3カ月の休業を余儀なくされた。翌19年の7月にも大雨で浸水し、営業再開まで約20日かかった。被災時は社員が総出で店の清掃や修理にあたり、汚れた商品など大量のゴミが山のように搬出された。度重なる損害に地元では撤退も不安視された。
被害を受け、運営元のイオン九州は18、19年に浸水対策を段階的に進めた。敷地境界の植栽を約500メートルに渡ってかさ上げし、高さ最大1・5メートルの土手を築いた。敷地出入り口には大雨時に使う高さ約1メートル、店舗玄関にも同約70センチの防水板をそれぞれ設置した。その結果、20~22年は周囲の道路が冠水しても店舗への浸水は防げた。
しかし23年7月9~10日、小郡市内は24時間当たり349ミリの急な豪雨に襲われ、小郡SCに3度目となる浸水被害が起きた。被災は9日の営業終了後で「前日の段階で浸水を予想できる状況ではなかった」(広報担当者)と商品を移動させるなどの対策もできていなかったという。この時も、清掃などで約20日間休業した。
もともとは田んぼ
なぜこれほど被害が生じるのか。もともと小郡市を含む筑後平野は筑後川水系の氾濫に悩まされてきた歴史がある。北側と東側を山々に塞がれ、海側から湿った空気が入ると雨雲が発生しやすい。大小の川や水路が入り組む低地が多く、川の水位が上がって平地の水が排出できなくなる内水氾濫が起きやすい地域だ。
小郡SCの敷地ももともとは田んぼで、周辺の道路よりも低く「水が溜まりやすい場所」(市の防災担当者)だった。イオン九州も進出時からリスクは把握して調整池などを整備していたが、「これほど豪雨が頻発する状況は進出当時は予測できなかった」(広報担当者)という。気象庁によると、小郡SCに最も近い佐賀県鳥栖市の観測点で、1日当たりの降水量の最大値は、10年代半ばまでは200ミリ以下の年が多い。一方、10年代後半は300ミリを超える年が急増し、従来より激しい雨が降るようになったことがうかがえる。
福岡県や市も水害対策に力を入れており、水を海に排水しやすくする河川工事や排水ポンプの設置を各所で進めてきた。店側も対策に巨額の費用を投じてきたが、市も「急な大雨は道や川の排水能力を超える。雨の降り方によって被害の状況や発生場所も異なってくる」(防災担当者)と対策の難しさを説明する。
イオン九州は3度の被災を受けて「これ以上、被害を出せない」(幹部)と、今年2~6月に対策工事に取り組んだ。敷地を囲むように土手を伸ばし、高い所だと2メートル以上にかさ上げした。敷地の出入り口も10カ所から5カ所に減らした。さらに低地にある入り口に設置している防水板を改修し、従来の2倍となる高さ2メートルに変えた。地中からせり上がるタイプで、停電に備えて予備電源も用意した。敷地内の下水や雨水の逆流を防ぐ装置も設置した。城の土塁のような工事風景に近隣住民らは口々に「万里の長城だ」「まるで要塞だ」と驚き、「イオンの本気度を感じる」(会社員男性)と称賛する市民もいる。
九州地方で豪雨への警戒が呼びかけられた20日深夜、記者が閉店後に訪れると、駐車場の門には金属製の赤い防水板がそびえ立って敷地を守っていた。イオン九州は「今度こそ絶対に浸水させない。その強い気持ちで対策を進めてきた」(広報担当者)と話し、テナント店舗の従業員も含めて防災訓練を重ねているという。【久野洋】
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