日々進化するがん治療。国産のロボットが、医療の現場が抱える問題を解決するかもしれません。

■がん治療を進化させる可能性を秘めた手術

(国立がん研究センター東病院 伊藤雅昭医師)「はい、じゃあいきましょう」
着々と進められる準備。ただ今回の主役は、医師だけではなく…。
(伊藤医師)「手術ロボットANSURを使った手術になります」
国産の手術支援ロボット「ANSUR」です。「ANSUR」の導入によって、本来、複数の外科医で行っていた手術を執刀医1人でこなすことができるのです。
(伊藤医師)「全てのアームを瞬時に動かせて、一番最適な視野の展開、非常に迅速な手術が遂行できる。今後もし外科医が増えない場合には、数少ない外科医でがんを治すことができる」

■腹腔鏡手術を効率化するロボット

日本で最も多い、年間およそ15万人がかかる「大腸がん」。国立がん研究センター東病院の伊藤雅昭 医師は、2000例を超える大腸がん手術の実績があります。近年、大腸など多くのがんの手術で行われているのが腹腔鏡手術。3人の外科医が、内視鏡の映像を観ながら連携して進めます。出血量が少なく、回復も早いのが特徴です。この腹腔鏡手術を1人で行えるようサポートするのが「ANSUR」。伊藤医師たちが中心となって独自に開発した手術支援ロボットです。ロボットには、カメラのアーム。そして鉗子がついた2本のアームがあります。執刀医は、両手に手術器具を持ちます。
(伊藤医師)「手術は僕が左手でものを掴んで、右手でこの先端、電気メスで組織を切ったり剥離する。」
右の手首を捻ることで3本のアームのうち動かしたいものを選び、足元のスイッチを踏み続けると、医師の動きとロボットのアームが連動します。本来、助手2人が行う器具の操作を1台のロボットが担うことで、執刀医がイメージする通りの手術ができるメリットがあります。
(伊藤医師)「自分の思った通り非常に迅速にロボットアームが動きますし、自分が狙った視野を作りながら、非常に理に適った手術になると」

■実際の手術では…カメラが現場に

患者はステージ2の直腸がんの男性。直径4cmほどの「がん」が直腸の中にあります。周りには多くの臓器や血管、重要な神経も集中しているため、傷つけないように慎重な技術が求められます。手術では、体内で直腸を支える膜や組織を適切な強さで引っ張ることで見える「剥離層」を切ることが求められます。
(伊藤医師)「剥離層を間違えると血が出たり、神経を傷つけたりするから、思った通りに(周囲の組織等を)引っ張って、その剥離層を出して、切るべき場所をちゃんと認識できる」
アームの鉗子で膜を掴みしっかりと引っ張る、カメラを見やすい位置に移動させるなど、ロボットを操作し確実に「剥離層」を切っていきます。
(伊藤医師)「基本的に手術でがんを見ちゃいけない、がんの外側から広いところで「がん」を包み込むようにして取るというイメージなので」
直腸の周りの脂肪に隠れた「リンパ節」に「がん」が転移している可能性もあります。そのため、「リンパ節」と一緒に直腸の一部を切り取ります。手術開始から2時間、「がん」がある部分に到達しました。
(伊藤医師)「腫瘍が大きいね…これは切りにくいね」
画像では、4cmほどと見られていた「がん」が、実際には少し大きかったことがわかりました。
(伊藤医師)「大丈夫よね…じゃあ行きます」
周囲の脂肪や「リンパ節」と共に直腸がんを無事に切除できました。
(伊藤医師)「腫瘍はちゃんととれているね」
開始から4時間…手術は成功しました。
(伊藤医師)「今日も基本的には僕一人で手術を終らせたので、1番最初にこれを使った外科医としてある程度型を作りながら皆に広める責務があるかなと」
ANSURを使った手術は、この病院で20例以上行われていて、国内の他の病院にも導入され始めています。

■医師の「2024年問題」解決策の1つに

構想から6年ほどで完成した「ANSUR」。開発のきっかけは、市場で圧倒的シェアを持つロボット「ダビンチ」でした。
(伊藤医師)「ダビンチはとてもいい機械だと思います。ただやはり高価で、例えばどの病院でも手に入れて手術することに関してはまだまだ壁がある」
伊藤医師は、当時、東京大学の助教だった安藤さんたちと共に新たな手術支援ロボットの開発を始めます。可能な限りコストを下げるために、ロボットが果たす役割を徹底的に絞り込みました。
(ANSURを開発した安藤岳洋氏)「助手がどっちに引っ張るとか、どちら側から見せてあげるとかを的確にできないと、(患者に)危険が及ぶ可能性がある医療ニーズがあるのを知ったことが一番のきっかけ」
カメラで的確に視野を確保でき、しっかり膜や組織を掴んで引っ張れる。この2つを執刀医が自らのイメージ通りに行えるようにしたのです。4月から勤務医の残業を減らすなど、働き方改革が始まる中、「ANSUR」はその解決策の1つとなる可能性を秘めています。
(伊藤医師)「最近ではやはり残念なことに外科医の数は他の科に比べて唯一減っているんですね。1人の先生が手術をロボットと一緒にやることで、他の先生が自由な時間を作ることができ、かつ患者に迷惑をかけることなく、がんを治すことができる。」

■神経や尿管が光る…AIによる手術支援システム

さらにもう1つ、「医師の働き方改革」の一助となりうる画期的なプロジェクトが進められています。
(手術中の医師)「これ神経、光っているよね。これ神経だよね」
モニターの中で、水色や緑に光る部分。実はこれ、手術中に傷つけてはいけない部分などをAIが自動的に表示しているのです。
(国立がん研究センター東病院 塚田祐一郎医師)「下腹神経は傷つけると、いわゆる性機能障害が出ます。尿管は腎臓から膀胱に尿を運ぶ管なので傷つけたらお腹の中に尿が漏れちゃいますので絶対傷つけてはいけない」
システムを支えるのは、全国の病院から集められた腹腔鏡手術の動画データベース。それを基に、この部屋で血管や神経といった重要な部位の正確な位置をAIに学習させます。すると、実際の手術の際、内視鏡の映像にリアルタイムに切っていい箇所や傷つけてはいけない部分が表示されるようになる仕組みです。AIによる手術支援は、すでに大腸がん患者への腹腔鏡手術で臨床研究が進んでいます。
(伊藤医師)「修行している期間の外科医の先生には時にそういうサポートがあることで安全な手術が行われると思うので有益じゃないかと。エキスパートしかわからない判断だとか、叡智をAIに学習させることで将来、手術をより自動化する。技術を進化させて、どんどん臨床現場に取り入れる歩みを止めてはいけないと思います。」


6月23日『サンデーステーション』より

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