南谷良枝商店の「いしる」を手にする南谷美有さん。貯蔵していたいしるの大半が売り物にならなくなった=石川県輪島市(荻野好古撮影)

日本三大魚醬(ぎょしょう)の一つで、昨年には製造技術が国の登録無形民俗文化財に登録された能登半島の「いしる」が苦境に陥っている。高齢化などで製造を断念する業者が相次ぐ中、元日の能登半島地震で製造現場は大きな打撃を受けた。「若い自分がやらないと」。いしる造りに携わる若手女性が、加工場の復興を目指して資金集めを進めている。

石川県輪島市でいしるなど水産加工品の製造販売を手掛ける「南谷良枝商店」。南谷美有(みゆ)さん(22)は、母が営む家業の店で2年前に働き始めた。きっかけは高校時代の職業体験。観光客らでにぎわう輪島朝市に立ち、楽しそうに働く母や祖母の姿に魅了されたという。

いしるは能登半島で江戸時代から続く魚醬で、サバやイワシなどの魚を塩に漬け込み、熟成発酵させて造る。その風味は「ナンプラー(タイの魚醬)に似ているけれど、臭みが少なく使いやすい」(南谷さん)。一般的な製法では熟成期間は1~2年ほどだが、同店では3~5年の長期間熟成させ、うまみやとろみを増しているという。

元日の地震では輪島市内にある倉庫が全壊。熟成用のたるも倒れるなどし、貯蔵していた約7トンのいしるは大半が売り物にならなくなり、残ったのはわずか約30リットル。隣接する加工場も大きく傾き、いしるを製造する場も失われてしまった。

それでも、南谷さんは「もう一度いしる造りをしたい」との思いから、製造再開に向けて動き出した。2月、再開資金5千万円を募るクラウドファンディング(CF)を開始。今月16日までに1千万円を突破した。

能登6市町の生産者でつくる「能登いしり・いしる生産者協議会」によると、廃業などで加入事業者は過去7年間で14業者から11業者に減少した。多くの伝統産業と同様、いしる製造も高齢化によって担い手不足に悩まされ、製法の継承も課題となっている。

南谷さんは「今こそ、若い自分がやらなければ。加工場などを再建し、いしるという地元に伝わる食文化を守っていきたい」と語った。

南谷さんのCFは、5月1日まで専用サイトで受け付けている。(荻野好古)

日本三大魚醬 秋田県の「しょっつる」、石川県の「いしる」、香川県の「いかなごしょうゆ」で、伝統的な製法が評価された魚醬。タイで食される「ナンプラー」やベトナムの「ニョクマム」と同様に魚介類を塩漬け、発酵して造るが、原料に用いる魚介類は地域によって異なる。

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