静岡県沼津市の精神科病院「ふれあい沼津ホスピタル」で2021年、入院患者の武田一昭さん(当時80歳)が重度の褥瘡(じょくそう)(床ずれ)を発症して転院後に死亡したのは、入院中に必要な処置を受けられなかったのが原因として18日、遺族が病院側に慰謝料などを求める訴訟を静岡地裁沼津支部に起こした。併せて、業務上過失致死などの疑いで沼津署に告訴状を提出した。【最上和喜、丘絢太】
訴状などによると、武田さんは脳梗塞(こうそく)の後遺症でせん妄症状があり、21年10月2日に同病院に任意入院した。2日後、「混乱がひどい」との理由で強制的に患者を隔離する「医療保護入院」に移行したが、本来必要な家族の承諾はなく、後日、日付をさかのぼって同意書に署名させられたという。
武田さんは約1カ月の入院期間のほとんどを、施錠された病室で過ごしたことで精神的に追い込まれた。同時に低栄養状態に陥り、背中の骨や内臓が見えるほど肉が壊死(えし)する重い床ずれを発症した。
入院中に面会を拒まれるなど、同病院の対応に不信感を抱いた家族の求めで、武田さんは同11月2日に別の病院に転院した。その時点で、床ずれは背中以外に太ももやかかとにもみられ、口内は黒いカビで覆われていたという。武田さんの容体は手の施しようがないほど悪化しており、同12月11日、急性肝不全で死亡した。
18日午後、武田さんの家族と代理人の貞友義典弁護士が県庁で記者会見して思いを語った。三男の昂三さん(43)は、武田さんの遺影を胸に抱き「父は最後、言葉を発することすらできなかったが、『ごめんね』と言うとうなずいてくれた」と涙を流し、「十分な食事も取らされず、カルテには治療の形跡もない。病院全体の体質に問題があった」と憤った。
「ふれあい沼津」を巡っては昨年6月、看護師ら2人が入院患者への傷害などの疑いで書類送検された。系列の病院でも職員が患者の口を粘着テープで塞ぐなどの不適切行為が確認され、県は精神保健福祉法に基づく改善指導を行っている。同病院の担当者は取材に対し「訴えるという話は聞いているが、訴状が手元に来ていないのでコメントできない」と話した。
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