事業主と雇用契約を結ばない「フリーランス」でありながら、働き方の実態から労働基準監督署が労働基準法上の「労働者」に該当すると判断した人が昨年度、153人に上ることが判明した。未払い報酬の支払いや労災が認められたいわゆる「偽装フリーランス」とみられ、厚生労働省の集計で初めて明らかになった。政府は近年、フリーランスを「新しい働き方」として成長戦略に位置付けている一方、企業側から安価な労働力として利用される偽装フリーランスの存在が社会問題化していた。有識者は「今回明らかになった人数は氷山の一角に過ぎない」と指摘する。
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「まさに搾取だ」偽装フリーランスの実態 進まぬ労基署の介入
労基法は原則、会社と雇用契約がある従業員を労働者とする。ただ、業務委託で形式上の雇用関係がなくても労働者として認められる場合がある。判断基準は、①指揮監督下の労働か②その労働の対価として報酬が支払われているか――だ。
一方で、偽装フリーランスは建設業の「一人親方」や配達ドライバー、文化芸術分野などに多いとされる。企業に雇われている労働者のように拘束性が高いものの、労働関係法令も適用されず、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象にもならない。
政府も対策に乗り出し、2023年度から労基署が労働者と判断したフリーランスについては、日本年金機構に情報提供し、社会保険を適用するよう促してきた。
今回明らかになった人数は、賃金未払いなどの相談を受けた労基署が「労働者に該当する」と判断し、年金機構に情報提供した人数。153人のうち、120人は年金機構が社会保険の適用要件に合うか調査中で、31人は企業規模が小さいなど適用要件の対象外と判断された。実際に適用されたのは2人にとどまる。
ただ、フリーランスは約209万人に上るとされ、労基署が認めた偽装フリーランスは氷山の一角に過ぎないとみられる。早稲田大の水町勇一郎教授(労働法)は「労働者性があると思って労基署に相談しても、人員不足もあって対応してもらえないフリーランスも少なくない」と指摘。その上で、「現行法で労働者性があるのに労働保険や社会保険が適用されない問題は解消していかなくてはならない。同時に、デジタル化の進展でますます多様化する働き方に対応するため、労働者の概念を再検討することも必要だ」と指摘する。【宇多川はるか】
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